地方共同法人 日本下水道事業団

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オキシデーションディッチ(OD)法の開発と基準化

~中小市町村における下水道の整備促進への貢献~

橋本 敏一

西日本設計センター長(執筆時 技術戦略部長) 橋本 敏一


はじめに

 オキシデーションディッチ(OD)法は、維持管理が容易で負荷変動に強いことなどから、小規模な下水道に適した水処理方式の一つとして位置づけられています。OD法は、表1に示すとおり、わが国の下水処理場の約半数、処理能力1万m3/日未満の小規模下水処理場の約7割を占める、わが国の下水処理場で最も多く採用される水処理方式であり、わが国における下水道、特に中小町村における整備促進において、大きな役割を果たしました。
 本コラムでは、JS設立10周年からの10年、すなわち、1983(昭和58)年から1992(平成4)年までのトピックスとして、当時JSにおいて、精力的に取り組まれたOD法の開発と基準化の歴史を振り返るとともに、その後のOD法に係る技術基準の深化、最新の取組みについて紹介します。

表1 水処理方式別処理場数(平成30年度末現在)
表1 水処理方式別処理場数
※高度処理OD法を含む

技術評価の実施と設計基準類の整備

 JS設立(1972年)の少し後の1975(昭和50)年から、特定環境保全公共下水道事業により都市計画区域外での下水道整備が可能となったことを受け、地方の中小市町村における下水道の整備促進が本格化しました。しかし、中小市町村は財政力が弱く、また、下水道施設の設計・建設や維持管理を行う専門の職員の確保が困難であることや、水量や水質の時間変動が大きいことなどから、低コスト、かつ、維持管理が容易で、負荷変動に対して安定した処理が可能な、小規模な下水処理場に適した水処理方式が希求されていました。JSでは、こうしたニーズに応えるため、1980年頃からOD法や回転生物接触法、回分式活性汚泥法などの小規模向けの水処理方式について、精力的に調査研究に取り組みました。
 OD法については、1966(昭和41)年に日光市湯元浄化センターで初めて導入されましたが、1982(昭和57)年度末時点での導入箇所はわずか6箇所でした。なお、このうちの一つである滋賀県近江八幡市沖の島浄化センター(処理能力210m3/日)は、JS初のOD法が採用された受託施設です(写真1参照)。同浄化センターは、琵琶湖の水質保全のため、窒素除去を確実に行う必要性から、他に例を見ない回分式OD法が採用されています。

写真1 近江八幡市沖の島浄化センター
写真1 近江八幡市沖の島浄化センター

 このようにOD法は、当時まだ下水道施設としての実績が少なく、その処理特性や設計手法、維持管理手法も明らかではありませんでした。そこで、JSでは、実施設における実態調査を進めるとともに、JS技術評価委員会に対して、1982(昭和57)年にOD法の技術評価を諮問しました。これを受けて、技術評価委員会で審議検討され、1983年には有機物除去に関する第一次答申、1985(昭和60)年には窒素除去特性、設計手法、維持管理等に関する第二次答申がなされました。
 JSでは、これらの技術評価の答申を受け、OD法のこれらの設計基準類の整備に着手し、1987(昭和62)年にOD法の設計諸元などを定めた「オキシデーションディッチ法設計指針」を制定しました。この設計指針の策定の経緯については、季刊水すまし前号(186号)の座談会「設立から10年間のJSを振り返る」において、昭和60年代の思い出深い出来事として紹介されていますので、こちらもご一読ください。
 続く1988(昭和63)年には、設計業務の効率化や迅速化を目的として「現場打ちオキシデーションディッチ法標準設計」を制定しています。これは処理水量1,300(3次改訂より700)~2,500m3/(日・池)を対象として、OD槽の構造図や配筋図を標準化したものです。当初は覆蓋のないOD槽のみでしたが、その後、3次にわたる改訂が行われ、覆蓋付のOD槽や最終沈殿池も標準化されています。
 図1に示すとおり、これらのJSにおける技術評価や設計基準類の整備を契機として、OD法を採用する下水処理場の数が大幅に増加しており、JSの技術力がわが国の下水道の整備促進に大きく貢献してきたことがわかります。

図1 水処理方式別の供用処理場数および下水処理人口普及率の推移
図1 水処理方式別の供用処理場数および下水処理人口普及率の推移

プレハブ式OD法の開発と標準化

 JSでは、前述した取組みと並行して、小規模下水処理場の設計・施工の合理化・迅速化を図り、中小市町村における下水道整備の一層の促進を図ることを目的として、プレハブ式OD(POD)法の開発と標準化を行っています。PODは、OD槽(外側)と最終沈殿池(内側)を同心円状に配置した構造で、プレキャストコンクリート部材を工場製作し、現地で組み立てることにより、OD法施設を構築するものです(写真1、2参照)。

写真1 POD施設の建設状況 写真1 POD施設の建設状況
写真2 POD施設の全景 写真2 POD施設の全景

 PODの開発は、建設省(当時)からの受託調査の一環として、1982(昭和57)年より着手し、1984(昭和59)年には社団法人日本下水道施設業協会(当時)との共同研究を実施し、これらの成果に基づき、1986年(昭和61年)に「プレハブ式オキシデーションディッチ法標準図」が制定されました。なお、PODに関する上記の共同研究は、1984年に創設された共同研究制度による、JS初の民間企業等との共同研究でした。また、POD標準図は、これまでに7次にわたる改訂が行われています。
 POD標準図は、処理能力300~1,200m3/日の規模を対象として、100m3/日毎に処理場施設一式(OD槽・最終沈殿池、塩素接触水路、汚泥濃縮槽、汚泥貯留槽、管理棟等)を標準化したもので、設計の省力化を図ることができます。さらにプレハブ部材を用いるため、工期の短縮、品質の向上が図られます。また、施設が簡便であり、PODに適した設備機器を用いるため、維持管理も容易というメリットもあります。なお、PODは1処理場1池の施設計画を基本としています。
 PODが最初に採用されたのは、群馬県中之条町沢渡水質管理センター(処理能力440m3/日)であり、1987年9月に着工し、1988年3月に竣工しました。現在までにOD法施設の2割弱に相当する185施設でPODが採用されています。

OD法に係る技術基準の深化

 1980年代後半の技術基準類の整備を受け、OD法を採用する下水処理場の数が着実に増加する中、JSでは、設計・施工での知見や調査研究の成果を踏まえ、技術基準類のアップグレードを進めてきました。
 現場打ちOD法標準設計については、種々の曝気撹拌装置の適用を前提としているため、土木構造物の基本寸法以外の標準化が困難であることなどから、設計・施工の効率化が進まないという実情がありました。そこで、縦軸型曝気撹拌装置に限定した標準化を進め、1995(平成7)年に「縦軸型オキシデーションディッチ法標準設計」を制定しました。1池当たり700~2,500m3/日、下水処理場の規模として700m3/日✕2池(1,400m3/日)~2,500 m3/日✕4(10,000m3/日)を対象として標準化されました。また、縦軸型曝気撹拌装置の特性を考慮し、OD槽の平面形状として、従来の長円形に替えて、馬蹄形が標準として採用されています。
 一方、技術開発部(当時)では、群馬県新治村湯宿処理場内に処理能力200m3/日の実験プラントを設置し、窒素除去および負荷変動を考慮した運転管理手法(ASRT制御)の開発を進めました(写真3参照)。この開発成果などに基づき、第3次の技術評価が諮問され、2000(平成12年)に答申されました。

写真3 OD法実験プラント
写真3 OD法実験プラント

 この第3次技術評価の結果を踏まえ、2003(平成15)年に「オキシデーションディッチ法標準設計」を新たに制定し、今日に至っています。縦軸型曝気撹拌装置以外の曝気撹拌装置を採用できるようにするとともに、従来の有機物除去対応に加えて高度処理対応を可能としたほか、従来の好気・無酸素ゾーン形成による連続曝気方式からASRT制御を伴う間欠曝気方式を標準とするなど、全面的な見直しが行われています。

OD法に係る最新の取組み

 下水道処理人口普及率の増加と相まって、2020年代以降、新規に供用するOD法の下水処理場の数は減少する一方で、1980年代後半に整備された下水処理場における改築更新需要が本格化するとともに、省エネ化の推進や人口減少に伴う流入水量の減少、処理場統廃合やし尿・浄化槽汚泥の受入れなど、様々な課題への対応が求められるようになりました。
 JSでは、これらの課題を同時に解決するべく、産学官連携により「OD法における二点DO制御システム」を開発・実用化し(図2参照)、2014(平成26)年にJS新技術導入制度における新技術Ⅰ類に選定しています。2021(令和3年)12月現在、8施設での導入を決定し、うち6施設が供用しています。なお、本技術は、平成27年度(第8回)循環のみち下水道賞「グランプリ」を初めとして、これまでに4つの賞を受けています。

図2 OD法における二点DO制御システムの概念図
図2 OD法における二点DO制御システムの概念図

 また、1処理場1池の施設が多いPODの改築更新ニーズに対応するため、膜分離活性汚泥法(MBR)を活用した移送可能な鋼板製の「仮設水処理ユニット」を民間企業との共同研究で開発し、2017(平成29)年に新技術Ⅰ類に選定しています。2021(令和3年)12月現在、7施設の改築更新事業などでの導入を決定しています。
 JSでは、今後も技術力を磨き、OD法の更なる進化を図ることにより、地方公共団体のニーズに応えて参ります。

下水道コンクリート構造物の腐食対策技術の開発と基準化

~デファクトスタンダード化によりコンクリート腐食対策を牽引~

橋本 敏一

西日本設計センター長(執筆時 技術戦略部長) 橋本 敏一


はじめに

 一般にコンクリート構造物は、中性化や塩害、凍害などによる劣化が知られています。下水道施設内のコンクリート構造物では、これらの劣化要因に加えて、下水道施設特有の使用環境下で生じる硫酸や炭酸、硝酸など、様々な酸性物質による劣化が知られています。その中でも下水道施設内で発生する硫化水素に起因する硫酸によるコンクリート構造物の劣化(以下、「コンクリート腐食」という。写真1参照。)は、劣化速度が速く、劣化が発生する施設の範囲が広いことから、適切な対策が求められています。

写真 1 コンクリート腐食事例
写真 1 コンクリート腐食事例
(着水井、23 年経過、H2S 濃度 30 ~ 60ppm 程度)

 日本下水道事業団(JS)では、わが国においてコンクリート腐食の事例が顕在化した1980年代から今日に至るまで、コンクリート腐食の実施設における実態把握やメカニズムの解明などに関する調査研究、コンクリート防食技術の開発を継続的に実施してきました。また、これらの調査研究や技術開発の成果などに基づき、コンクリート腐食対策に関する技術基準を整備してきました。
 本コラムでは、下水道施設に特有な硫酸によるコンクリート腐食の機構および対策技術の概要を説明するとともに、JSにおけるコンクリート腐食対策技術の開発と基準化の取組みについて紹介します。

コンクリート腐食の機構と対策技術

 コンクリート腐食の機構は、図1に示すとおり、以下の5つの過程に区分できます。
 ① 下水中への硫酸イオンの混入(上水やし尿、洗剤、工場排水や温泉排水の流入、海水の侵入などに起因)
 ② 嫌気性条件下での硫化水素の生成(汚水や汚泥の滞留や腐敗、嫌気性条件下での硫酸塩還元細菌による働き)
 ③ 硫化水素の気相中への拡散(段差・落差の大きい部位などでの流れの乱れや撹拌による放散)
 ④ 硫化水素からの硫酸の生成(コンクリート表面の結露水中、好気性条件下での硫黄酸化細菌による働き)
 ⑤ コンクリート成分と硫酸の反応(pH の低下、硫酸のコンクリート内部への侵入、化学的反応による劣化・腐食)

図1 コンクリート腐食の機構の概念図
図1 コンクリート腐食の機構の概念図

 コンクリート腐食を防止するためには、上述した5つのいずれかの階段で進行を止めればよく、以下の2つに大別されます。
 一つは、上記の①から④のいずれかの階段でコンクリート表面での硫酸生成を抑制する方法(コンクリート腐食抑制技術)で、下水や汚泥の嫌気性化防止や段差・落差の解消、換気によるコンクリート表面の乾燥などが挙げられます。
 もう一つは、コンクリート表面に耐硫酸性材料を用いて防食被覆層を形成し、コンクリートと硫 酸の接触を遮断することにより、⑤の段階でコンクリート腐食を防止する方法(コンクリート防食 技術)です。代表的なコンクリート防食技術(防食被覆工法)の概要を表1に示します。

表1 代表的なコンクリート防食技術(防食被覆工法)の概要
表1 代表的なコンクリート防食技術(防食被覆工法)の概要

腐食機構の解明と対策技術の開発・ 確立

 JSにおけるコンクリート腐食対策技術の開発 と基準化の経緯を表2に示します。JSでは、固有調査研究や共同研究による調査研究成果に基づき、技術評価を実施するとともに、その評価結果を技術基準に反映することにより、下水道におけ るコンクリート腐食対策を牽引してきました。


表2 JSにおけるコンクリート腐食対策技術の開発と基準化の経緯

表2 JSにおけるコンクリート腐食対策技術の開発と基準化の経緯

 コンクリート腐食に関する最初の取組みは、1981(昭和56)年度に行った鹿児島市南部処理場の水処理施設におけるコンクリート腐食の調査です。また、1987(昭和62)年には、顕在化したコンクリート腐食へ早急に対応するため、わが国におけるコンクリート腐食対策に関する最初の技術基準となる「コンクリート防食塗装指針(案)」を制定しています。この指針では、硫化水素ガスの発生が多い施設を対象にタールエポキシ樹脂塗装を行うものとしていました。
 その後、1986(平成61)年度から地方受託調査として、コンクリート腐食が発生した下水道施設の実態調査などを行うとともに、1991(平成3)年度からはJS 独自の固有調査研究として、コンクリート腐食環境と腐食速度の関係や硫酸によるコンクリート腐食の判定手法の調査研究、各種防食被覆材の機能調査などを実施しました。また、これらの調査研究の過程で下水道施設のコンクリート腐食環境を再現させたコンクリート腐食促進実験装置(エイジトロン)を製作し、その後のコンクリート防食技術の開発で活用されました(写真2参照)。

写真 2 コンクリート腐食促進実験装置
写真 2 コンクリート腐食促進実験装置 ( エイジトロン )

 1993(平成5)年度からは、民間企業との共同研究により樹脂ライニング工法(塗布型ライニング工法、シートライニング工法)の開発を行うとともに、1997(平成 9)年度までJS が実施していた民間技術審査証明において、樹脂ライニング工法 8 技術の審査証明を行いました。
  1990年代に入り、下水道の整備普及が急速に進む中、新規に建設する下水道施設のコンクリート腐食対策が急務であったことなどを背景として、その時点での調査研究成果に基づいて「コンクリート防食指針(案)」を1991(平成3)年に制定し、1993年、1997年の2回にわたり改訂を行っています。この指針では、下水道施設の腐食環境を年間平均硫化水素ガス濃度により4段階に分類するとともに、各種の防食被覆工法について、その標準設計仕様を定めていました。当初は塗布型ライニング工法のみでしたが、1997年の第2次改訂でシートライニング工法(成型品後貼り型、型枠型)が追加されました。

技術評価の実施と防食マニュアルの制定

 1997(平成9)年度からの固有調査研究において、それまでの調査研究成果に基づき、コンクリート腐食機構や腐食環境、樹脂ライニングによる防食性能や防食被覆工法などを体系的に整理するとともに、JS技術評価委員会において、「下水道構造物に対するコンクリート腐食抑制技術及び防食技術」に関する技術評価が行われ、2001(平成 13)年3月に答申されました。
 この技術評価に基づき、従前の指針を全面改訂した「下水道コンクリート構造物の腐食抑制技術及び防食技術マニュアル」(以下、「防食マニュアル」という。)が2002(平成 14)年11月に制定され、今日に至っています。防食マニュアルでは、コンクリート腐食抑制技術とコンクリート防食技術による設計・施工・維持管理にわたる総合的な腐食対策の実施が規定されています。また、コンクリート防食技術については、従前の防食被覆工法毎の標準設計仕様の例示から、防食被覆工法に求められる性能を定めた品質規格とこれらを総合した性能である耐久性を維持する期間(設計耐用年数)を規定する性能照査型に移行しています(図2参照)。

図2 コンクリート防食技術の性能規定の概念図
図2 コンクリート防食技術の性能規定の概念図

 JSでは、防食マニュアル制定から15年以上経過し、防食被覆層の供用年数が防食マニュアルに規定する標準的な設計耐用年数である10年を経過した施設が増加してきたことから、2018(平成30)年度より2021年度にわたり、14か所の実施設において、防食被覆層の劣化状況などについて現地調査を行いました。その結果、供用後10年以上経過しても、防食被覆層の最も基本的な性能である硫酸の遮断性(防食被覆層への硫黄の侵入抑止)は機能しており、品質規格は概ね妥当であると判断されることが明らかとなっています。一方、防食被覆層の接着安定性(コンクリート躯体と防食被覆層の一体性)については、経年による劣化(接着強度の低下)が認められ、防食被覆層の長寿命化(設計耐用年数や供用年数の延長)に向けての今後の課題と考えられます。

コンクリート防食技術の充実化

 2000(平成 12)年度から、コンクリートの補修材料として使用するモルタルに耐硫酸性を付与する技術について、民間企業との共同研究を実施しました。この共同研究では、普通モルタルの5倍程度の耐硫酸性(5% 硫酸溶液に浸漬させた際の浸食深さが1/5 程度)を有する耐硫酸モルタル(5 倍モルタル)が開発されました(写真3参照)。

写真3 5%硫酸水溶液浸漬後(6ヶ月浸漬)のモルタル供試体の外観例
写真3 5%硫酸水溶液浸漬後(6ヶ月浸漬)のモルタル供試体の外観例

 共同研究成果に基づき、技術評価を実施し、2008(平成20)年3月に答申されました。これを受け、2012年4月に防食マニュアルが改訂(第2 次)され、モルタルライニング工法が追加されました。本工法は、腐食したコンクリートの断面修復と防食被覆層の形成を同時に行えるため、従来技術と比較して工程の簡略化や工期短縮が可能であるなどの特徴を有しています。
 また、2004(平成 16)年度から2007 年度には、普通モルタルの10 倍程度の耐硫酸性を有する耐硫酸モルタル(10 倍モルタル)が開発されています。実施設(最初沈殿池気相部)における試験施工およびその後のフォローアップ調査の結果、標準的な設計耐用年数である10年経過後も、断面欠損はなく、表面劣化もほとんど見られず、防食被覆層としての機能を維持していることが確認されました。
 2010(平成 22)年度からは、改築更新時の多様な施工環境に応じたコンクリート防食技術の開発を目的として、シートライニング(光硬化型)について、民間企業との共同研究を実施しました。共同研究成果に基づき、技術評価を実施し、2015(平成 27)年7月に答申されました。これを受け、2017年12月に防食マニュアルが改訂(第3次)され、シートライニング工法の一つ(プリプレグ後貼り型)として位置付けられました。本工法は、従来技術と比較して、品質安定性に優れ、かつ、現場施工性が高いという特徴を有しています(写真 4 参照)。

写真 4 シートライニング工法 ( 光硬化型 ) の施工状況
写真 4 シートライニング工法 ( 光硬化型 ) の施工状況
(シート貼り付け状況)

 防食マニュアルの第3次の改訂では、上記の防食被覆工法の追加に加えて、ビルピットなどにおける発生事象を踏まえ、有機酸により防食被覆層が劣化する可能性がある部位において、耐有機酸性を求める場合の品質規格を新たに定めています。さらには、2015 年に制定された日本産業規格 JIS A 7502「下水道構造物のコンクリート腐食対策技術」への対応を図っています。なお、本規格については、JS と一般社団法人日本コンクリート防食協会が共同して原案を作成しています。

おわりに

 本格的な改築更新の時代を迎え、老朽化したコンクリート構造物の耐用年数を延長し、ライフサイクルコストの低減を図るとともに、下水道施設としての機能を確保・維持していくうえで、コンクリート防食技術の重要性はさらに増していくものと考えられます。
 JSは、今後も引続き、防食マニュアルのアップデートなどを通じ、下水道施設におけるコンクリート腐食対策を牽引することにより、下水道プラットフォーマーとして、下水道事業全体の発展に貢献して参ります。

ご参考

 コンクリート腐食対策技術に係る技術評価や近年の調査研究成果については、
JSのホームページ(https://www.jswa.go.jp/g/g01/g01.html)でご覧頂けます。

膜分離活性汚泥法(MBR)の技術開発

~これまで・いま・これから~

弓削田 克美

技術開発審議役(兼)技術開発室長 弓削田 克美


はじめに

 膜分離活性汚泥法(Membrane Bioreactor:MBR)は、膜により固液分離を行う活性汚泥法です。
 日本下水道事業団(JS)は、わが国の下水道分野としては初めて、実下水処理場の流入下水を用いたパイロットプラントでのMBRの本格的な実証試験を平成10年度(1998年度)に開始しました。
 本コラムでは、平成10年度(1998年度)からのMBRに係る開発・導入の歴史を振り返るとともに、最新の技術評価について紹介します。

そもそもMBRって?

 MBRは、活性汚泥法における固液分離操作を、従来の最終沈殿池における重力沈降から、膜分離へと代替する処理法です。MBRといっても、生物学的に特殊なプロセスが進行する訳ではなく、原理的には活性汚泥による各種生物処理方式(例えば、通常の二次処理、循環式硝化脱窒法、嫌気無酸素好気法などの高度処理)との組合せが可能です。
 固液分離に膜を使用することにより、従来の重力沈降で固液分離を行う活性汚泥法と比較して、コンパクトな施設で高度な処理が可能であることや、清澄で衛生学的安全性の高い処理水を得られるなどの優れた特徴を持っています。このため、既設の下水処理場の再構築や高度処理化、下水処理水の再利用など、わが国の下水道事業が抱える様々な課題を同時に解決し得る優れた技術です。
 膜ユニットの設置方法で分類すると「浸漬型MBR」と「槽外型MBR」に大別され、前者は膜ユニットを浸漬させるタンクの位置付けにより「浸漬型(一体型)MBR」と「浸漬型(槽別置型)MBR」に区分されます。

MBRとは

技術開発のこれまで

 JSでは、平成10年度(1998年度)に民間企業との公募型共同研究(第1期)に着手して以降、継続的に技術開発に取り組み、平成 15年(2003年)11月にMBR の技術評価1(第1次)を行い、下水処理への適用性や設計・運転管理の留意事項などを明らかにするとともに、小規模・新設施設を対象とした設計要領(JS内部資料)を作成しました。これらの成果に基づいて、日本初のMBR施設を兵庫県福崎町福崎浄化センターに導入し、平成17年(2005年)3月に供用開始しました。これを皮切りにMBRを導入した施設の設計・施工・供用開始が進んでいます。

技術評価(第1次)
(平成15年(2003 年)11月答申):
(国内)下水処理への適用性、設計 / 管理の留意点

1 技術評価:JS が開発した技術について、主としてJSの試験研究成果に基づき、その技術の特徴や性能、設計や維持管理における留意点等について、公正かつ客観的な評価を行う。JSの外部評価機関である技術評価委員会において、調査・審議され評価を行う。

 この技術評価(第1次)以降の技術開発の進展や実施設の運転実績の増加などを受けて、中大規模処理場の改築などへの適用拡大を目的として、技術評価(第2次)を平成25年(2013年)4月に行いました。MBRの多様性を前提とした技術の体系化及び詳細な技術的特徴の明確化を図るとともに、中大規模への適用を含めた汎用的な計画・設計手法及び運転管理手法を示しました。またMBRの更なる機能向上・導入促進に向けた次なる技術開発の方向性として、① MBR の省エネルギー化・低コスト化、②合流式下水道を含めた適用対象の拡大を示しました。(図1)

技術評価(第2次)
(平成 25年(2013年)4月答申):
○ 中 ・ 大規模下水処理場への適用拡大
○ 安定かつ効率的な運転管理
○ 今後の技術開発の方向性 省エネ化/低コスト化、合流式対応

導入状況

 令和4年(2022年)2月時点では、下水道におけるMBRの国内導入実績は25施設、うち24施設は稼働中で、全国の下水処理場(2,145 施設)の1%で導入されている計算です。
 24施設の大多数が小規模施設で、処理能力10,000m3/ 日未満が21施設(87.5%)、1,000m3/日未満が10施設(41.7%)となっています。用地の制約によりMBR導入が図られた事例が多いようです。

国内下水道MBRの処理能力別箇所数
国内下水道MBRの処理能力別箇所数
図1 JS における MBR の開発・実用化の経緯
図1 JS における MBR の開発・実用化の経緯

 近年、既存施設を活用した高度処理や窒素の超高度処理を目的として、処理能力10,000m3/日を超える大規模MBRのプロジェクトが複数進行しており、一部は供用を開始しています。(表1)
 このほかにも、狭隘な処理場用地内での土木躯体を含む水処理施設の全面改築でのMBRを導入する計画が複数あります。
 今後MBRの導入対象は、小規模施設の新設事業から、中大規模施設の増改築事業が主流になると見込まれています。

表1 国内大規模 MBR プロジェクト
表1 国内大規模 MBR プロジェクト

技術開発のいま

  「流域別下水道整備総合計画調査指針と解説」(平成27年(2015年)10月、国土交通省水管理・国土保全局下水道部)では費用関数が示されています。そこから小規模型MBRと高度処理OD法を比較してみると、建設費について大差はありませんが、維持管理費は明らかにMBRが高くなっています。(図2)
 技術評価(第2次)において開発の方向性として、省エネルギー化と低コスト化、合流式下水道を含めた適用対象の拡大が示されました。JSでは、この2点を主要なテーマとして平成24年度(2012年度)に着手した公募型共同研究(第4期)以降、新たなMBRシステムの技術開発に取り組んでいます。
 まず省エネルギー性能についてです。従来の活性汚泥法の処理水量当り消費電力量(以下、消費電力量原単位)の典型値
  標準活性汚泥法:0.1 ~ 0.3kWh/m3
  高度処理(BNR):0.2 ~ 0.4kWh/m3
に対して、共同研究(第4期)(2012~2017年度)では性能目標値を0.4kWh/m3 以下とし、以降も引き続き開発目標として0.3 ~ 0.4 kWh/m3以下を掲げて、研究を進めてきました。現時点ではシステムおよび条件により、0.3 kWh/m3程度またはそれを下回る消費電力量原単位で運転可能なMBR システムが実現されています。(図3)

図2 費用関数による MBR
図2 費用関数による MBR( 循環式硝化脱窒型 ) と
  従来法 ( 高度処理 OD) のコスト比較
【費用関数の出典】流域別下水道整備総合計画調査 指針と解説、H27 年 10 月、国土交通省水管理 ・ 国土保全局下水道部
図3 MBR の消費電力量原単位の推移のイメージェクト
図3 MBR の消費電力量原単位の推移のイメージェクト

 次に雨天時を含めた流量変動対応における運転性能についてです。MBRでは流入水量の時間変動や雨天時のピーク水量などの流量変動への対応が必須で、特に小規模型MBRでは、流量調整タン クにより流入水量の時間変動を完全に平滑化する施設を建設してきました。一方、今後の需要が見込まれる中大規模施設の増設や再構築事業では、大規模化に加え、雨天時ピーク水量への対応としてフラックス変動運転2などを含む対応策の検討が必要で、共同研究(第4期)以降研究を進めています。
 フラックス変動運転の対応幅は、一時的なフラックス引上げの上限である「ピークフラックス」に規定されるため、その水準を明確にしておくことが重要となります。一般的な流入汚水量の時間変動パターンに対しては、1日平均フラックスの1.4倍から1.5倍の範囲のピークフラックスで長期的に運転が可能であること、雨天時の流入量増加に対しては1 日平均フラックスの1.4 倍から2.0倍相当のピークフラックスで24時間連続運転が可能であることが実証され、流量調整タンクに依存せずに流入水量変動に対応できるMBR システムが実現されています。

2 フラックスとは単位膜面積・単位時間当たりの膜ろ過水量のこと。フラックス変動運転とは時間変動や雨天時などにおける反応
タンク流入水量の短期的変動に対してフラックスを連動させて膜処理水量を変動させる運転のこと。

MBRの技術評価(第3次)

 MBRの更なる適用拡大および導入促進、技術開発の促進に資することを目的に、最新の知見に基づき、現時点でのMBRの技術性能などを評価するため、MBRの技術評価(第3次)を行い、令和4年(2022年)3月に答申されました。評価のポイントは次の通りです。

技術評価(第3次)のポイント
(令和 4 年(2022 年)3 月答申):
○ 省エネルギー性能
 ・ MBRの電力使用量原単位が従来の高度処理法の平均的な電力使用量原単位と同程度の水準であること
 ・ 送風機容量の縮小や膜ユニットの低コスト化などによる建設費の削減も期待できること
○ 流量変動対応
 ・ 一般的な流入水量時間変動に対してピークフラックスを平均フラックスの1.4~1.5倍として長期的に安定した運転が可能であること
 ・ 雨天時の流入水量増加に対してピークフラックスを平均フラックスの1.4倍~2.0倍として24時間連続処理が可能であること
○ その他事項
 ・ MBR の性能評価方法
 ・ MBR のおける膜の交換実績
○ 今後の開発の方向性
 ・ 「ライフサイクル的視点での温室効果ガス排出量の削減」、「普及促進の鍵となる低コスト化」に関する研究・技術開発に重点を置きつつ、様々な場面におけるMBR の活用に関する研究開発を行っていくことが重要

おわりに

 JSではこれまで二十数年間の長きにわたりMBRの技術開発に取り組み、3次にわたり技術評価をしてきました。その結果、小規模施設での新設を促進し、また中大規模施設の改築更新の課題に対する解決策の選択肢の一つを示してきたと考えています。
 技術評価(第3次)に示された今後の開発の方向性を念頭に、これからも研究・技術開発に努めてまいります。

ⅰ 参考文献
(2003 年 11 月)
膜分離活性汚泥法の技術評価に関する報告書 - 日本下水道事業団.
(2013 年 4 月)
膜分離活性汚泥法の技術評価に関する第2次報告書- MBR の適用拡大へ向けて - 日本下水道事業団.
(2022 年 3 月)
膜分離活性汚泥法の技術評価に関する第3次報告書 ― MBRの省エネ化と流量変動対応―日本下水道事業団.
https://www.jswa.go.jp/g/g01/g4g/g4g.html からご覧いただけます。

嫌気性消化法の技術開発

~これまで・いま・これから~
三宅 晴男

事業統括部 三宅 晴男
(現国土交通省 国土技術政策総合研究所 下水道研究部 下水道エネルギー・機能復旧研究官)


はじめに

 嫌気性消化は、汚水処理で発生した汚泥の減量化、性状安定化、病原菌の死滅を主な目的として、日本においては昭和初期より用いられています。日本下水道事業団(以下、JS)が旧建設省からの受託(以下、国受託)により初めて消化関連調査を行った1975(昭和50)年当時、全国の処理場数254の約4割、100処理場で嫌気性消化を導入していました。時代の変遷と共に、当初目的に加え地域バイオマスを含めた積極的な資源活用や回収、近年では脱炭素の切り札としての活用が期待されます。本稿ではJSにおける嫌気性消化及び関連技術の調査・開発の歴史を振り返るとともに、最近の動向等を記します(以下、各年度を昭和:S、平成;H、令和:Rと示します)。

嫌気性消化とは

 嫌気性消化(メタン発酵)の基本メカニズムを図1に示します。メタン発酵ではバイオマス(有機性固形物)の全てが分解ガス化の対象とはならず、有機物のうち液化反応(加水分解反応)されるもののみが対象となります。液化反応により低分子化された有機物は酸生成菌の働きでプロピオン酸等の有機酸となり、更に酢酸やH2にまで変化します(酸生成反応:俗にいう腐敗現象)。酢酸やH2はメタン生成菌の働きでメタンガス(CH4)や炭酸ガス(CO2)にまで分解ガス化されますが、メタン生成菌は酸生成菌と比較し増殖速度が小さく外的要因の変化にも弱いため、安定したメタン発酵にはメタン菌の安定した活動環境を確保することが最重要となります。

図1 メタン発酵のメカニズム

図1 メタン発酵のメカニズム

 なお一般的な下水処理場で発生する汚泥のうち、初沈汚泥は炭水化物が主体で微生物分解を受けやすく、余剰汚泥は活性汚泥微生物に起因するたんぱく質が主体の汚泥である等、その有機分組成は大きく異なり、消化槽投入有機物当たりのガス発生量や分解率も余剰汚泥に比べて初沈汚泥は極めて高いです(図2)。

図2 各種バイオマスのメタン発酵特性例

図2 各種バイオマスのメタン発酵特性例(ガス発生量と有機物分解率)

技術開発のこれまで 初期(S50~)

 JSにおける消化関連の調査は、国受託による「汚泥消化プロセスからの脱離液の処理に係る調査」(S50~51)からスタートしました(図3)。当時あまり実態が把握されていなかった消化脱離液等の成分、水処理への影響等を調査し、石灰添加によるリン凝集沈殿とメタノール添加による硝化・脱窒実験を行っています1他)。また当時は、水処理と比較して整理が不十分であった汚泥処理プロセスの維持管理手法整理への対応として、消化プロセス等の管理指針案(運転管理指針、費用関数等)を整理しています(S52~57)2他)

図3 JSにおける嫌気性消化関連調査の変遷

図3 JSにおける嫌気性消化関連調査の変遷
※主なテーマの実施時期を示したもの(横棒と実施研究等の数は一致しない)

発電エネルギー資源として(S55~)

 1970年代の石油危機を契機にS54に「エネルギーの使用の合理化などに関する法律(省エネ法)」が制定され、消化についても消化ガスのエネルギー的価値が注目されてきました。消化ガスはそれまでも消化槽加温熱源に用いられていましたが、消化ガスを用いたガスエンジン方式発電機の実用化による電気エネルギーへの変換及び熱回収利用が可能となってきた背景もあり、JSでは国受託や地方公共団体からの調査・検討等委託(以下、地方受託)により、消化ガス発電の調査・導入検討を開始しました3他)。非常用自家発電設備及び常用発電としての利用検討や、加圧浮上濃縮法採用による消化槽投入汚泥の高濃度化等により増加した余剰ガスの有効利用として、ガスエンジンと廃熱回収装置を組み込んだ総合的なシステムの導入検討等を実施しています。しかし、汚泥処理方式見直しによる消化槽の廃止や、消化ガス発電設備の保守点検・故障等の維持管理に関する問題から、消化ガス発電の大幅な普及拡大には至りませんでした。

スケール対策~リン回収(H3~)

 消化の運用において、消化槽以降の汚泥配管(汚泥貯留槽や脱水機内等も)に白色結晶のスケールが付着、閉塞等維持管理の障害となる事象が生じていました。JSでは地方受託により同様事例の調査、原因物質であるリン酸アンモニウムマグネシウム(MAP)の挙動、生成機構の調査を実施し、溶解度とpHや塩化第二鉄添加等による関係、管材質とスケール付着の関係等を調査し、抑制・除去のための汚泥処理方法を策定しました(H3-5)。固有研究では資源回収の面からも消化プロセスでの汚泥中リンの再放出に注目し、共同研究によりMAP法の原理による汚泥処理返流水からのリン回収技術を開発しました(H4~6)(図4)。消化汚泥脱水ろ液に塩化マグネシウムを添加、リン酸態リンとマグネシウムのモル比1:1、pH=8程度で80%のリン酸態リン除去率が得られています5他)

図4 MAP法によるりん回収技術フロー例

図4 MAP法によるりん回収技術フロー例4)

下水道法改正~汚泥減量化、MICS推進(H8~)

 下水道法が改正されたH8当時、全国では316処理場で嫌気性消化工程を有し、またH7時点の下水汚泥リサイクル率は30%(建設資材が主)でした。法改正では下水道管理者に対し発生汚泥の脱水、焼却、再生利用等の減量化努力義務が課せられました。また1996(H8)年8月には「バイオソリッド利活用基本計画策定マニュアル」が発行され、下水汚泥だけでなく他バイオマスを併せて処理する計画手法が整理されました6)。汚泥減量化、下水処理場での他バイオマスの受け入れ、放流水質の高度化等の必要性が高まる中、JSでは消化槽に係る実態アンケートや、消化から発生する汚濁負荷量とその除去に関する調査(H9~13)7他)、LCCO2やMICS汚泥高濃度消化に関する調査(H10~13)8他)、嫌気性消化を中心としたエネルギー自給率向上検討(H14~17)9他)等により、汚泥の集約処理や生ゴミ等他有機性廃棄物受入れにおける前処理や需要先確保、集約による返流水等の検討等、下水処理場における他有機物混合処理検討を実施しています。
  消化導入促進にあたり障害となる、消化ガス発電に不具合を引き起こす原因についても、消化ガス中の微量不純物であるシロキサン(シャンプーや化粧品等に含まれるケイ素と酸素のポリマー化合物の総称)の影響要因が解明されてきました。JSでも消化ガス中のシロキサンによる動作阻害等の対応検討・実証を行うほか10、11他)、発電技術の開発としてマイクロガスタービンや固体高分子型燃料電池の適用可能性調査や、ガス利用効率の向上のため、消化ガス中に含まれるメタン(約60%)と二酸化炭素(約40%)の水への溶解度差を利用しメタン濃度を90%に濃縮する方法の実証等を実施しました(H13~16 )12他)。嫌気性消化自体の効率化検討としては、消化槽投入汚泥を前処理・可溶化し、消化率向上を図る技術等の調査(H13~17)を開始しています。更には安定した処理水確保及び回収リンの再利用(肥料化等)のため、消化や可溶化技術と組み合わせた晶析脱りん法、フォストリップ法、MAP法、HAP法等の調査を実施しました(H15~18)13他)

下水道ビジョン2100(処理場のエネルギー自立)(H17~) 技術評価(H23)


 持続可能な循環型社会構築を目指し、2005(H17)年9月に「下水道ビジョン2100」が取りまとめられ、「資源のみち」として化石燃料に依存しないエネルギー100%自立の処理場の構築等により資源回収・供給ネットワークを創出すべきとされました14)。JSでは消化を中心としたエネルギー自立型処理場の確立、中小規模処理場への消化の適用拡大を目指し、地域バイオマス受け入れによる効率化検討等の実施15、16他)とともに、当時不足していた消化に係る体系化された技術情報・導入効果確認のための基礎資料の整理や省エネ・創エネ対策の必要性等を背景に、外部有識者からなるJS技術評価委員会に対して「エネルギー回収を目的とした嫌気性消化プロセス」に関する技術評価を諮問し、H24.3に答申されました。技術評価では、初沈汚泥、余剰汚泥、混合汚泥及び外部受け入れバイオマス(生ゴミ)を対象基質とし、従来の中温・高温消化、及び共同研究により開発された後述の2つの消化システム17、18)について、基質性状特性、消化特性、エネルギー回収効果及び留意事項を評価しています。消化の留意点には以下等が挙げられています。
エネルギー回収のためには、最初沈殿池や重力濃縮タンク等での汚泥発酵を進行させない速やかな引き抜きや滞留時間の短い濃縮方法が望ましい。また出来るだけ最初沈殿池で有機物補足率を高めることが望ましい。
余剰汚泥は窒素やリンの含有率が高く、消化により消化槽内のNH4-N濃度が上昇し消化阻害が生じる可能性がある。また返流水は特にNH4-N濃度が高くなる。
消化汚泥の含水率は、未消化汚泥に比べ通常2~5ポイント程度高くなる(脱水前の汚泥性状や脱水機種等による)。

 「担体充填型高速メタン発酵システム」(図5)は、発酵に係る細菌を消化槽内に固定化し高濃度保持することで高負荷処理、安定消化を実現するシステムで、消化日数短縮(混合汚泥:10日、初沈汚泥のみ又は生ゴミとの混合消化:5日)や消化槽内NH4-Nの自動制御等の効果を確認しています。「熱改質高効率嫌気性消化システム」(図6)は、脱水した消化汚泥の一部を160~170℃・0.5~0.7MPaで改質し消化タンクに返送・再消化を行うもので、消化日数短縮(15日)、ガス発生量1.2~1.3倍増加、脱水汚泥含水率5~7ポイント低下、及び発生汚泥量1/2~1/3減を確認しています19)
 技術評価で示された課題の解決に向けた調査等も実施しています。消化による汚泥の難脱水化に対しては、消化汚泥の脱水に多用されている遠心脱水機について、機内二液調質型の調査を行い、従来の高分子凝集剤による一液調質法及び無機凝集剤の給泥配管中への注入よる二液法と比較し、含水率及び消費電力の低下を確認しています20,21,22)
 返流水対策では、消化汚泥の脱水分離液を対象としたアナモックス法(図7)の調査を実施23他)、当該結果を踏まえ「アナモックス反応を利用した窒素除去技術」に関する技術評価が行われています(答申:2010(平成22)年3月)24)

図5 担体充填型高速メタン発酵システム

図5 担体充填型高速メタン発酵システム

図6 熱改質高効率嫌気性消化システム

図6 熱改質高効率嫌気性消化システム

図7 アナモックス反応を利用した窒素除去技術の処理フロー

図7 アナモックス反応を利用した窒素除去技術の処理フロー
嫌気性消化汚泥の脱水ろ液から省エネルギー&低コストで窒素を除去

FIT制度開始(H24~)、下水道法改正~バイオマス有効利用推進(H27~)

 H24.7の再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)開始、2015(H27)年5月の下水道法改正における下水道管理者に対する発生汚泥のエネルギー化・肥料化の努力義務化(セメント原料化はバイオマス有効利用に該当せず)、更にH30からの消化槽・消化ガス発電等の設置・改築時における性能指標(分解VSあたり消費電力量や発電効率など)の交付要件化等、バイオマス有効利用、省エネ、創エネ推進の方向性が強く示されました。
 JSにおいても、地方受託等にて消化槽の新規導入+消化ガス発電の検討、地域バイオマス受入れ・混合消化の検討、リン除去・資源化調査や設計部門との連携検討(当該処理場の汚泥を用いた消化実験による効果確認等を含む)が増加した時期になります。FIT制度により全国の消化ガス発電導入処理場は増加(H23:35、R1:118)しましたが、消化プロセスの課題(設備費・維持管理費が高価、広い設置用地を要する、返流水の懸念等)もあり、新設と廃止が概ね相殺し、消化プロセスを持つ処理場は過年度と比較して微減(R1:292)となっています。
 これらのニーズ・課題を受け、JSでは共同研究により低動力型撹拌機との組み合わせによる鋼板製消化槽の開発(建設工期短縮、各種センサーによるタンク内の可視化、槽内底部堆積物の効率的排出の工夫等)を積極的に行いました。また初沈汚泥を8~10%まで濃縮し、消化槽容量や加温エネルギーの削減等でLCC縮減を図ったシステム等の開発を行いました(H26~R3)。難脱水汚泥への対応も引き続き実施し、従来の高効率ベルトプレス脱水機の一次脱水部に無機系凝集剤を注入する後注入二液型ベルトプレス脱水機(H25~29)や、適正な凝集フロック形成と力で圧縮脱水を行う難脱水対応型スクリュープレス脱水機等を開発しました(H29~30)。更には脱水機供給汚泥中の繊維状物量(脱水性に影響し、消化プロセスで減少する)に着目した新たな取組として、消化プロセス投入前の初沈汚泥から繊維状物を回収し、消化後の汚泥に添加することで脱水性向上や薬注率低下等を可能とする「下水汚泥由来繊維利活用システム」(図8)を開発し(H25~28)、技術評価も実施されました(答申:2016(H28)年12月)25)。本項上記に示した技術の多くはJSにおいて積極的に導入を促進していく「新技術」として選定しており、各種パンフレットに掲載しておりますので是非ご覧下さい26,27)
 水素社会の到来に対しても検討を行っています。国受託による消化ガスからの水素製造・利活用等の検討(H27~29)28他)や、共同研究によりバイオガス精製装置(高圧水吸収法)と水素製造装置(水蒸気改質法)を組み合わせた水素製造プロセスの能力、品質、LCC検証等を行っています(H27~30)29)

図8 下水汚泥由来繊維利活用システム

図8 下水汚泥由来繊維利活用システム

技術開発のいま

 これまでに示したJSの固有研究、共同研究等の成果を活用した汚泥処理・有効利用プロセスの開発として、国土交通省の下水道革新的技術実証事業(以下、「B-DASH」)により地方公共団体や民間企業等と共同して実規模レベル施設で技術検証を行い、ガイドラインとして取りまとめられています。高効率可溶化装置、発生消化ガスの圧力を利用した無動力撹拌式消化槽等の組み合わせにより地域バイオマスやOD汚泥等の集約処理に適用できる「高効率消化システムによる地産地消エネルギー活用技術」(H29~30)30)や、消化槽投入汚泥の高濃度濃縮とNH4-N調整、バイオガス精製+小規模水素製造・供給装置の組み合わせによる「高濃度消化・省エネ型バイオガス精製による効率的エネルギー利活用技術」(図9)(H30~R1)等が該当します。後者では余剰水素を消化槽へ戻すことで消化槽内CO2と反応させCH4を生成するメタネーションの調査も行い、メタン濃度5~7ポイントの上昇を確認しています31)
 固有研究でも、人口減少や省エネ化・脱炭素化等、時代の要請に応えるため、地域バイオマス活用等によるバイオマス利活用促進調査、メタン発酵シミュレーションモデル構築の実施(R29~R3)32)や、JSが開発・施工した鋼板製消化タンク(2022(令和4)年10月現在3処理場で稼働(例:写真1))を対象とした事後評価調査等を実施中です。

図9 B-DASHプロジェクト

図9 B-DASHプロジェクト「高濃度消化・省エネ型バイオガス精製による効率的エネルギー利活用技術に関する実証事業」
写真1 鋼板製消化タンクの例
写真1 鋼板製消化タンクの例(埼玉県中川水循環センター)

おわりに(嫌気性消化のこれから)

 「地球温暖化対策計画」(R3.10閣議決定)では、下水道分野において2030年度における温室効果ガス排出量を2013年度比(CO2換算)208万t削減、2050年カーボンニュートラルに向けて更なる高みを目指すとされています。その一環として下水汚泥のエネルギー化率を2030迄に37%に向上することで約70万tの削減を目指しています33)。「脱炭素社会への貢献のあり方検討小委員会報告書」(2022(R4)年3月)においても地域バイオマスの活用拡大や下水中の資源・エネルギーのより効率的な回収・利用技術の必要性が示されています34)。また2022(R4)年9月の食料安定供給・農林水産基盤強化本部での「下水汚泥・堆肥等の未利用資源の利用拡大により、グリーン化を推進しつつ、肥料の国産化・安定供給を図ること」との総理発言等、今後下水汚泥の農業利用検討が加速する中で、消化汚泥脱水返流水等からの高濃度窒素・リン回収技術や消化汚泥の乾燥・コンポスト化利用等、消化及び関連技術へ注目が集まっています。
 JSにおいて今後5年間に取り組む技術開発及び開発成果の活用に関する基本方針、並びに具体的な実施内容を定めた「JS技術開発・活用基本計画2022」では、脱炭素社会の実現に向けた貢献を果たすため、「2030年の温室効果ガス削減目標に向けた脱炭素技術の開発」を開発課題の筆頭に掲げ、その中で「バイオガス利活用技術」を開発項目の一つとして位置付けています。また共同研究については、近年、民間企業からの課題提案による「提案型共同研究」が主となっていましたが、今後は真に必要な技術開発に注力する観点から、JS自らが課題設定を行う「公募型共同研究」を基本とし35)、現在「脱炭素社会実現に向けたバイオガス利活用技術及び嫌気性消化技術の開発」等を公募中です。JSでは、今後も時代のニーズに応じた研究・技術開発に努めてまいります。

図10 嫌気性消化プロセスを中心とするエネルギー有効利用の取組み例

図10 嫌気性消化プロセスを中心とするエネルギー有効利用の取組み例

【参考文献】

※1参考文献としては主に日本下水道事業団の年次報告書を挙げており、その他関連報告書等については大幅に省略しております。ご興味のある際にはJS技術開発室までお問い合わせ下さい。
※2 地方受託の参考文献、受託団体名等は今回示しておりませんが、H16以降の情報についてはJSのHP 技術開発年次報告書(https://www.jswa.go.jp/g/g01/g4g/nenjihoukokusho.html)に掲載しておりますのでご参照ください。
※3 各年次の処理場数等については、「下水道統計」((公社)日本下水道協会)を参照しています。

1)日本下水道事業団:汚泥処理消化プロセスからの脱離液の処理に関する調査、試験部報1977、pp.193-209
2)日本下水道事業団:汚泥管理手法の改善に関する調査、試験部報1983、pp.148-165
3)日本下水道事業団:首都圏等における下水汚泥広域処理処分事業調査に関する技術調査、試験部報1983、pp.212-241
4)国土交通省都市・地域整備局下水道部:下水道におけるリン資源化の手引き、H22年3月、p.91
5)日本下水道事業団:汚泥嫌気性処理返流水からの資源回収に関する調査、技術開発部報1995、pp.42-50
6)国土交通省都市・地域整備局下水道部:バイオソリッド利活用基本計画(下水汚泥処理総合計画)策定マニュアル(案)、H15.8
7)日本下水道事業団:高度処理に伴う汚泥の処理・処分の開発に関する調査、技術開発部報2002、pp.46-54
8)日本下水道事業団:汚泥の処理処分の効率化に関する調査(嫌気性消化プロセスの効率化に関する基礎調査)、技術開発部報2002、pp.10-15
9)日本下水道事業団:エネルギー回収型汚泥処理システムに関する調査、技術開発部報2006、pp.8-1 - 8-9
10)日本下水道事業団:下水処理場におけるエネルギーの効率的利用に関する調査、技術開発部報1996、pp.197-208
11)日本下水道事業団:中小規模処理場に適した下水汚泥等からのエネルギー回収利用技術の開発、技術開発部年報(H20年度)、pp.48-49
12)日本下水道事業団:嫌気性消化プロセスを利用した処理場内エネルギー自給率向上技術の開発、技術開発部年報(H16年度)、pp.41-42、(H18年度)、p.43
13)日本下水道事業団:資源利用を目的とした下水及び汚泥からのりん回収技術の実用化、技術開発部年報(H16年度)p.44、(H17年度)p.41、(H18年度)p.44-45
14)国土交通省都市・地域整備局下水道部、(社)日本下水道協会:下水道政策研究委員会・下水道中長期ビジョン小委員会報告書 下水道ビジョン2100、H17年9月
15)日本下水道事業団:汚泥有効利用方式選定に関する調査、技術開発部報(H16年度)、pp.9-1 – 9-10 
16)日本下水道事業団:未利用バイオマス等活用によるエネルギー自立型処理場の開発に関する調査、技術開発部報(H20年度)、p.4-1 - 4-13
17)日本下水道事業団:中小規模処理場に適した下水汚泥等からのエネルギー回収利用技術の開発、技術開発年次報告書(H23年度)、p.160
18)日本下水道事業団:バイオマスエネルギー利用を目的とした熱化学的な汚泥の改質(可溶化)技術の開発、技術開発年次報告書(H23年度)、p.159
19)日本下水道事業団技術評価委員会:エネルギー回収を目的とした嫌気性消化プロセスの評価に関する報告書、H24年3月
20)日本下水道事業団:温室効果ガス排出量の削減に寄与する低含水率遠心脱水機の実用化、技術開発年次報告書(H23年度)、p.168
21)日本下水道事業団:2液薬注による低含水率遠心脱水機の開発、技術開発年次報告書(H23年度)、pp.171-172
22)日本下水道事業団:2液薬注による低含水率遠心脱水機の実用化に関する開発、技術開発年次報告書(H24年度)、p.200
23)日本下水道事業団:高度処理技術の省エネルギー化・コンパクト化に関する調査、技術開発部報(H21年度)、pp.1-1 - 1-12
24)日本下水道事業団技術評価委員会:アナモックス反応を利用した窒素除去技術の評価に関する報告書、H22年3月
25)日本下水道事業団技術評価委員会:下水汚泥由来繊維利活用システムの技術評価に関する報告書、H28年12月
26)日本下水道事業団:ニーズに応える新技術 R4年度版(https://www.jswa.go.jp/new-technology/wp-content/uploads/2022/10/2022shingijutu.pdf)
27)日本下水道事業団:JS技術カタログ R4年度版 (https://www.jswa.go.jp/new-technology/wp-content/uploads/2022/10/2022shingijutu.pdf)
28)日本下水道事業団:下水処理場からの水素利活用検討業務、技術開発年次報告書(H29年度)、pp.120-126
29)日本下水道事業団:LCC低減を目的とした高機能水素製造プロセスに関する研究、技術開発年次報告書(H30年度)、p.166
30)国土交通省国土技術政策総合研究所:B-DASHプロジェクトNo.26 高効率消化システムによる地産地消エネルギー活用技術導入ガイドライン(案)、R元年12月
(http://www.nilim.go.jp/lab/ecg/bdash/h29_mitsubishi.htm)
31)国土交通省国土技術政策総合研究所:B-DASHプロジェクトNo.31
  高濃度消化・省エネ型バイオガス精製による効率的エネルギー利活用技術導入ガイドライン(案)、R2年12月
(http://www.nilim.go.jp/lab/ecg/bdash/h30_kobelco.htm)
32)日本下水道事業団:嫌気性消化・バイオガス利用の拡大、技術開発年次報告書(R3年度)、p.5
33)地球温暖化対策計画、R3年10月22日
 (https://www.env.go.jp/earth/ondanka/keikaku/211022.html)
34)国土交通省水管理・国土保全局下水道部、(公社)日本下水道協会:下水道政策研究委員会 脱炭素社会への貢献のあり方検討小委員会報告書~脱炭素社会を牽引するグリーンイノベーション下水道~、R4年3月
35)日本下水道事業団:JS技術開発・活用基本計画2022~脱炭素社会の実現に向けて下水道技術のイノベーションを牽引~ 2022年3月(https://www.jswa.go.jp/g/g07/g07.html)

オキシデーションディッチ(OD)法における二点DO制御技術

弓削田 克美

技術開発審議役(兼)技術開発室長 弓削田 克美


はじめに

 日本でオキシデーションディッチ法(以下 OD法)を採用している下水処理場は1050か所程度あり、実に日本の処理場の半分近くを占めています。
 JSでは1977(昭和52)年から調査に着手し、1983(昭和58)年以降第三次までの技術評価をJS理事長の諮問機関である技術評価委員会で行っています。

OD法に関する技術評価の経緯
1
技術評価委員会技術評価の答申報告書は、https://www.jswa.go.jp/g/g01/g4g/g4g.htmlからご覧いただけます

そもそもOD法とは

 OD法は、最初沈殿池を設けず、機械式エアレーション装置を有する無終端水路を反応タンクとし低BOD-SS負荷で活性汚泥処理を行い、最終沈殿池で固液分離する処理方式です。
 機械式エアレーション装置は、処理に必要な酸素を供給する、活性汚泥と流入水を混合攪拌する、混合液に流速を与え活性汚泥が沈降しないようにする役割を担っています。
 OD法の特徴として、①低BOD-SS負荷で運転されるため、流入下水量や流入水質の時間変動や水温低下に対して安定した有機物除去が可能である、② SRT が長くなることで硝化反応が進行する、③硝化反応の進行により処理水 pHが低下し処理水質が悪化することを防ぐため、積極的に硝化を促進し、かつ脱窒を行わせる運転(OD槽内に好気ゾーンと無酸素ゾーンを形成する連続曝気方式、または好気 / 無酸素工程を一定時間ごとに繰り返す間欠曝気方式)により、完全硝化と脱窒を促進することを基本とする、④反応タンク内のDO濃度は、反応タンクの流れ方向に濃度勾配が生じるが挙げられます。

OD法の制御方法と課題

 JSのOD法標準設計(2003 年)では処理場小規模化が進み1池当たりのOD槽が小さくなり好気 ・ 無酸素ゾーンを形成する運転が難しくなっていることを踏まえて曝気方式を間欠曝気方式とし、また完全硝化と脱窒促進のためASRT管理2と組み合わせることを標準としています。さらに処理の安定化と自動化を目的としてDO計を用いたDO一定制御運転3を組み合わせることを可能としています。反応タンク内の流れ方向でDOの濃度勾配が生じるため、DO濃度が低くなる機械式エアレーション装置から遠い位置である(無終端水路のため)曝気機上流位置での好気時間におけるDO濃度を測定してそれを一定に制御することで、OD槽内全体で必要なDO 濃度を確保します。間欠曝気運転方式では、時間的にOD槽内を好気 / 無酸素工程に分けて運転するため、流入負荷の時間的な変動に対して、柔軟な対応が難しいのが実情です。
 日本のすべての下水処理場で消費する電力量のうち、約半分は水処理において使用されていて、OD法の処理場でもほぼ同じ傾向です。ただし処理水量あたりの水処理での消費電力量を比較してみると、OD法はそれ以外の処理法の2倍程度となっており、地球温暖化防止の視点からOD法においても省エネルギー化が課題となっています。

2
ASRT管理:安定した有機物及び窒素除去を行うために、増殖速度の遅い硝化細菌を確実に維持するための好気状態におけるSRT(ASRT)を管理し、かつ、好気・無酸素状態の時間管理によって脱窒まで確実に進行させる運転管理方法
3
DO一定制御運転:好気運転時間帯の反応タンク内測定点(曝気機の上流位置が多い)におけるDO濃度を一定となるように酸素供給機器の回転数制御を行う運転

二点DO制御技術の開発経緯

 二点DO制御技術は、従来のOD法の処理水質の改善と、コスト ・ エネルギー消費の大幅な削減を目的として、高知大学藤原拓教授が2000(平成12)年度に基礎研究に着手し、その後JS・前澤工業㈱・高知大学の3者による共同研究(2008(平成 20)~ 2012(平成24)年度)ならびに、高知大学・高知県・香南市・前澤工業㈱の4者の共同研究(2008(平成20)~ 2011(平成 23)年度)として、5者による産官学連携により、実施設での実証実験を行い、実用化したものです。

二点DO制御技術の特徴

 これまで多 くの処理場で導入している縦軸型機械式曝気装置は、混合・攪拌を行って流速を生じさせ(水路循環機能)、さらに酸素の供給も行う(酸素供給機能)ものであり、2つの機能を1台(正確には1池に2台設置しています)でこなしています。
 一方二点 DO 制御技術は、図1に示すドラムに羽根のついた低動力の縦型水流発生装置、省エネルギー性に優れた高効率超微細気泡散気装置、回転数制御が可能なブロワの機械設備と、OD槽内の二箇所に蛍光式DO計を設置し、この蛍光式DO計により連続測定 した二点のDO濃度をもとに、二点間のDO濃度勾配が一定になるように、曝気風量(酸素供給機能)と水流発生装置回転数(水路循環機能)を独立して自動制御を行う技術です。
 これにより流入負荷の変動 とそれに伴う活性汚泥の酸素消費速度の変動の影響に左右されず、(これまで難しかった)連続曝気方式でOD槽内に好気ゾーンと無酸素ゾーンを安定的に形成できるようになります。そのため高い窒素除去性能を得ることが可能となり、流入負荷の変動に応 じて曝気風量や循環流量 を自動制御できるため省電力化が期待できます。
 また流入負荷条件や施設条件によっては、従来よりも高負荷条件で運転することが可能であり、今ある反応タンクでの処理水量(処理能力)を増加させることができます。

縦型水流発生装置 縦型水流発生装置
散気装置 散気装置
図1 二点 DO 制御技術の機械設備

二点DO制御技術の原理

 二点DO制御技術における制御原理の概略図を図2に示します。
 二点DO制御技術は、散気装置に近いDO計(以下「DO計1」)と、好気ゾーン末端のDO計(以下「DO計2」)との間のDO濃度勾配が常に一定範囲内にあるように、曝気風量と水流発生装置回転数をそれぞれ独立して変動させる技術です。
 二点DO制御技術の制御原理の概念図を図3と図4に示します。

図2 二点DO制御技術の概略図 図2  二点DO制御技術の概略図
二点DO制御技術における制御原理の概念図(高 負荷時) 図3  二点DO制御技術における制御原理の概念図(高 負荷時)
二点DO制御技術のおける制御原理の概念図(低負荷時) 図4   二点DO制御技術のおける制御原理の概念図(低負荷時)

 流入負荷が増加する高負荷時の場合、図3に示すように、流入する負荷量が増加すると消費する酸素量が増えて、DO計 1とDO計2ともにDO濃度が低下し、二点間のDO濃度勾配が通常負荷時の勾配(望ましいDO勾配)に比べて急となります。そこで曝気風量を増加することによりDO計1のDO濃度を上昇させ、設定値に戻すように制御を行うと同時に、水流発生装置の回転数を増加させて循環流量を増やすことにより、DO 計2のDO 濃度も上昇させて、DO濃度勾配を設定範囲に戻すように制御します。
 一方、流入負荷が減少する低負荷時の場合、図4に示すように、流入する負荷量が減少すると消費する酸素量が減少して、DO計 1とDO計2ともDO濃度が上昇し、二点間のDO濃度勾配緩やかになります。そこで曝気風量と水流発生装置の回転数を減少させることにより、DO計1とDO計2のDO濃度を低下させて、DO濃度勾配を設定範囲に戻すように制御します。

二点DO制御技術の導入効果

 二点DO制御技術を導入する場合の効果は次の通りです。
・ 安定した処理水質(BOD、窒素)の確保が可能です
・ 日本で多数導入されている縦軸型機械曝気装置に比べて、消費電力量を約 30% 削減することが可能です
・ 流入条件によりますが、一時的なピーク流量超過や流入水質上昇などに対して高負荷運転による対応が可能になります

おわりに

 二点DO制御技術は、従来のOD法の課題である流入負荷の時間的な変動へ柔軟な対応や他処理法に比べて高めの処理水量当たりの消費電力量に対して効果が期待できる技術です。
 ただし、既存のすべてのOD槽で導入が可能である技術ではないことにご留意ください。
 導入に当たっては、流入条件などのFS調査を行い、個別の検討が必要です。導入をお考えの場合はぜひJSにご相談ください。

海外インフラ展開法とJSの国際展開

岩崎 宏和

国際戦略室長 岩崎 宏和


はじめに

 日本下水道事業団(JS)は、地方共同法人として地方公共団体が実施する下水道事業を支援するとともに、下水道技術の開発、基準類の整備や人材育成等を行ってまいりましたが、JSが保有する技術力、知財力、総合力を活かし、JSに期待される海外技術支援を円滑かつ確実に実施していくため、2011年4月にJS国際戦略室の前身である国際室が設置されました(2015年に現在の国際戦略室へ改称)。JSは今年で創立50周年を迎えましたが、国際戦略室は発足11周年を迎えています。
 JS国際戦略室では、設立当初より、海外向け技術確認、海外プロジェクト支援、国際標準化の支援や下水道ハブとしての活動等を行ってまいりましたが、2018 年には、我が国事業者の海外展開を協力に推進することを目的として、独立行政法人等に海外業務を行わせる「海外インフラ展開法」が施行されています。これにより、JSが海外技術的援助業務を行うことが法的に位置づけられ、JSの国際業務にとって大きな節目となりました。ここでは、海外インフラ展開法とこれまでの国際展開について振り返るとともに、最近の国際戦略室が実施している業務の概要について紹介します。

海外インフラ展開法の概要

 「海外社会資本事業への我が国事業者の参入の促進に関する法律」(海外インフラ展開法)は、2018年に成立、施行された比較的新しい法律で、国土交通分野の海外インフラ事業(海外社会資本事業)について、我が国事業者の海外展開を強力に推進するため、国土交通大臣が基本方針を定めるとともに、独立行政法人等に海外業務を行わせるための措置を講ずるというものです。
 少子高齢化が進む我が国の成長戦略として、新興国を中心とした世界の旺盛なインフラ需要を取り込むため、民間事業者の海外展開を促進することが必要ですが、インフラ開発・整備は相手国政府の影響力が強く、民間事業者では相手国政府との連携や調整が困難であること、インフラ整備等に関する専門的な技術やノウハウは独立行政法人等の公的機関が保有していることなど、民間事業者のみの対応では限界があるという必要性から、海外インフラ展開法が制定されました。
 対象となる独立行政法人等は、独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構、独立行政法人水資源機構、独立行政法人都市再生機構、独立行政法人住宅金融支援機構、日本下水道事業団、成田国際空港株式会社、高速道路株式会社、国際戦略港湾運営会社及び中部国際空港株式会社となっており、日本下水道事業団も対象となっています。
 海外インフラ展開法第8条には、日本下水道事業団の行う海外技術的援助業務が規定され、『日本下水道事業団は、この法律の目的を達成するため、基本方針に従って、下水道の整備に関する計画の策定若しくは事業の施行又は下水道の維持管理であって海外において行われるものに関する技術的援助の業務を行う』とされたことにより、下水道事業の川上(計画策定)から川下(維持管理)まで、全てのフェーズで技術援助業務が可能となっています(図-1)。

図-1  川上から川下までの海外プロジェクト支援
図-1  川上から川下までの海外プロジェクト支援

 法に基づく基本方針では、『世界の水ビジネス市場は2020 年に約 100兆円を超える市場規模となる見通しの中、特に下水道分野については2013年(約30兆円)から2020年(約39兆円)で約3割増という高い成長率が見込まれており、世界の旺盛な需要を取り込む必要がある。海外における下水道事業では、相手国政府の選択に応じて採用技術の決定がされることから、交渉に当たっては日本側も公的な信用力等が求められるため、民間企業のみでの対応には限界がある。このため、法第 8 条により、下水道の技術やノウハウ、さらには公的機関としての信用力等を有する日本下水道事業団に、海外の下水道に関するマスタープラン策定支援、F/S 調査、設計監理、入札支援、施工監理、処理場の運転管理支援等の技術的援助業務を行わせることにより、海外の下水道事業への我が国事業者の参入の促進を図るものとする。』とされています。
 なお、海外インフラ展開法に合わせ、日本下水道事業団法も改正されており、第26条第2項第1号に『海外社会資本事業への我が国事業者の参入の促進に関する法律(平成三十年法律第四十号)第八条に規定する業務』が規定され、海外技術的援助業務がJSの本来業務となりました。

JSの国際展開

 JSの国際業務は、国際貢献、国際水ビジネス展開支援の2本柱で行ってまいりましたが、海外インフラ展開法により、本邦企業の支援を強化することが求められ、現在では後者により重点を置いた事業を展開しています。特に、川上から川下までの海外プロジェクト支援のうち、計画の前段階である「技術シーズ」のスペックインを重視しています。ここではこれまでの取組みと現在の取組みについて、代表的なものの概要を紹介します。

(1)海外向け技術確認
 「海外向け技術確認」は、公的な第三者機関であるJS が民間企業の海外向け下水道技術について、性能や維持管理性等の妥当性を確認するもので、本邦企業の国際水ビジネス参入、スペックインに向けた支援を目的としたJS 独自の制度です。
 確認された技術については、海外向け技術確認の申請者(民間企業)に対して JS から技術確認証を交付します。相手国の政府や地方公共団体への技術紹介の際には、技術確認証と同時に国土交通省からカバーレター(紹介状)が発出されます。
 2014年3月にJS が技術確認したメタウォーター(株)の先進的省エネ型下水処理システムは、ベトナムのダナン市において実証試験が行われていた技術で、PTF(Pre-treated Trickling Filter)法という名称で海外での営業が進められています。当該技術は、ベトナム・ホイアン市における無償事業の処理技術として採用された他、カンボジア・プノンペンにおける無償事業にも採用されています。
 また、第2号として、三機工業株式会社の「DHSを用いた省エネルギー・省力下水処理技術」について技術確認を実施し、2022年3月に確認証を交付しました。

(2)下水道技術海外実証事業への参画
 国土交通省が実施する下水道技術海外実証事業(WOW TO JAPAN)に民間企業と共同で参画し、本邦下水道技術の普及を目指す取組を行っています。
 2017年度は、異形管用自立非開削下水道管路更生工法の実証を積水化学工業(株)と実施しています。2021年度は、ポンプゲート設備に適用される全速全水位型横軸水中ポンプに係る実証事業として、(株)石垣、日本テクノ(株)とJSの共同事業体がベトナム・ビン市においてセミナーを開催(日本側はオンライン参加)するとともに、現地での実証を行いました。
 2022年度は、カンボジアにおけるPODコンセプトを用いた小規模下水処理法の現地適応性に係る実証事業として、(株)神鋼環境ソリューションとJSの共同事業体の提案が採択され、プノンペンの南に位置するタケオ州においてPODのコンセプトを用いた水処理技術について、現地で建設したものがカンボジアの排水基準を満たすことなど所定の性能を確保できるか実証を行うとともに、仕様及び経済性の検証を行うこととしています。

(3)海外における下水道等案件形成調査
 海外インフラ展開法施行後、国交省の委託を受け、AWaP(アジア汚水管理パートナーシップ)参加国等における下水道普及方策の検討を行っており、AWaP 事務局支援、AAA都市会議事務局支援に加えて、フィリピン、カンボジア等において下水道案件形成のための調査を行っています。なお、AWaPは、SDGsのターゲット6.3「未処理汚水の割合の半減」を目指したパートナーシップで、カンボジア、インドネシア、ミャンマー、フィリ ピン、ベトナム、日本の6 ヶ国がパートナー国となっています。
 フィリピンでは、バギオ市において下水道と浄化槽のパッケージ案件形成調査を実施し、バギオ市長への直接説明を行っています(写真-1)。バギオ市は、首都マニラの北約 250km に位置し、人口は約35万人、夏の首都と呼ばれる高原の都市です。河川の上流に位置するため、汚濁負荷削減が求められています。

写真-1 バギオ市長への説明
写真-1 バギオ市長への説明(2022年6月)

 カンボジアでは、シェムリアップ、スバイリエンを対象とした下水道計画を作成し、カンボジアのMPWT(公共事業運輸省)に対し直接説明しています。シェムリアップは、世界的な観光地であるアンコールワットの観光拠点です。スバイリエンは、首都プノンペンとベトナム・ホーチミンのほぼ中間地点に所在するアジアハイウェイ1号線の沿道都市であり、カンボジア側から調査要請があったものです。
 今後は、これらの調査済案件の実現化を目指し、先方政府や地方自治体をサポートしていくとともに、ベトナムなどにおいて、新たに調査を行うこととしています。
 また、タイWMA(下水道公社)との間で協力覚書を2020年2月に締結しており、覚書に基づき、本邦技術による「小規模処理施設の試験的な整備事業(ショーケース事業)」を提案し、WMAの了承を得ています。今後は、ショーケース事業の実現に向けて費用負担や契約方法などを詰めていくことになります。
 なお、コロナ禍で実現できなかった協力覚書の交換式を2022年9月にJS本社で行っています(写真-2)。

写真-2 協力覚書交換式
写真-2 協力覚書交換式
(左:WMAシーラ総裁 右:JS森岡理事長)

(4)事業実施、技術的支援
 2015 ~ 2017 年度には、JICA より、イラク・ウクライナ下水道事業の詳細設計に係る案件監理業務を受託し、イラク・エルビル市の下水道プロジェクトとウクライナ・キエフ市ボルトニッチ下水処理場改修事業における設計監理を行いました。

(5)人材育成
 (一財)下水道事業支援センターが実施するJICA研修への研修講師の派遣等、海外技術者向け研修への支援を行っています。
 また、地方自治体が実施するJICA草の根技術協力プロジェクトへの支援も行っており、2021年度から3年間の予定で、静岡県が実施するモンゴル国ドルノゴビ県未処理汚水改善プロジェクトに対する支援を実施しています。

(6)ISO/TC275の国内審議団体としての活動

 ISO/TC275 は汚泥の回収、再生利用、処理および廃棄に関する国際規格の専門委員会で、日本国内ではJS と(一社)日本下水道施設業協会が共同で国内審議団体となっています。特に、本邦優位技術である焼却やリン回収において、積極的に参加をしており、継続していく予定です。

(7)その他民間企業支援

 JICAが実施する中小企業・SDGs ビジネス支援事業に参画する本邦企業を支援することも行っており、2022年度においては、フジクリーン工業(株)が実施する「排水基準に対応した浄化槽技術による効率的かつ持続的な下水インフラ整備に関する案件化調査」への支援を実施しています。

おわりに

 海外インフラ展開法を受けて、今後とも国土交通省やJICAなどと協調しつつ、民間企業の海外展開の支援、地方公共団体への支援等を行っていくこととしておりますので、JS の活用についてご検討いただけると幸いです。

JSの浸水対策支援について

~下水道ソリューションパートナーとして~

新井 智明

事業統括部計画課長 新井 智明


はじめに

 日本下水道事業団(JS)は専ら、処理場の設計・建設を支援する組織というイメージを持たれている方も多いかと思いますが、浸水対策の取り組みについても積極的に支援してきています。これまでに、浸水対策関連の施設に関しても、約390箇所の雨水ポンプ場の設計・建設、また、シールド工事等の管渠整備を約280箇所において支援してきました。
 JSでは、先般の下水道法をはじめとする流域治水関連法の改正への対応に伴って行う計画策定等が、各地方公共団体における浸水対策の加速化のための重要な取り組みであることから、計画策定の段階から積極的に支援していくこととしています。
 ここでは、地方公共団体にとってのソリューションパートナーとしての取り組みのうち、浸水対策に関する支援についてご紹介します。

浸水対策の支援フロー

 図1に、浸水対策事業に関するJSの支援フローを示しています。浸水被害の軽減に向けては、浸水想定区域の検討や雨水管理総合計画の策定、下水道法に基づく事業計画の見直し、そして、雨水ポンプ場や貯留施設等の設計・建設工事など、それぞれが密接に関連した多岐にわたる取り組みが求められるため、JSでは、これらを一体的に捉えて、支援していくこととしています。

図1 浸水対策の支援フロー
図1 浸水対策の支援フロー

 先般の法改正を受けて、最初に取り組みが求められるのが浸水想定区域の設定です。これについては、雨水管理総合計画の策定と並行して検討し、浸水被害に関する「リスク情報」と「その軽減に向けた具体策」をセットで取りまとめていくことをJSでは推奨しています。
 浸水対策事業の実施には、多くの費用と期間を要する場合が多く、浸水被害の実績のある箇所、あるいは、人口や都市機能が集積している箇所など、浸水対策を優先的に実施すべきエリアを選定の上、段階的な対策を検討していくことが求められます。また、今回の法改正で追加された下水道法の事業計画への計画降雨の位置づけについても、雨水管理総合計画の策定を通じて、メリハリをつけた浸水対策を検討し、多層的な浸水リスクの評価を行った上で、検討していくことが効果的です。そのためJSでは、下水道の「浸水対策のマスタープラン」とも言うべき、この雨水管理総合計画の策定を重視しており、その策定を推奨しています。
 なお、雨水出水浸水想定やハザードマップの策定に関しては、簡易な作成方法も提示されています。当面、浸水対策の実施予定のない地方公共団体等におかれては、地方公共団体独自での業務の実施をお願いしつつ、JSとしては、対策が急がれる地方公共団体への支援に注力していくことも想定しています。
 また、フロー図の最終ステップにある施設の設計・建設においても、大規模なシールド工事や、狭小な敷地におけるかなり深度の掘削工事、大規模な施設の建設事例も多く、高度な技術力が求められることが多いことも実際です(図2に支援事例)。

図2  浸水シミュレーションの実施と効率的な建設計画策定事例
図2  浸水シミュレーションの実施と効率的な建設計画策定事例

効率的かつ効果的な浸水対策に向けて

 雨水ポンプ場など大規模な施設の建設には、その期間中、設計や工事の監督管理に従事する職員を確保する必要がありますが、各地方公共団体において、そのための新たに職員を採用・増員することは容易ではありません。さらに難工事も見込まれるとなれば、大きな都市といえども、大規模な事業の実施には、通常の要員では対応が困難で、従来から実施している通常の事業のスピードを落とさざるを得なくなることも懸念されます。通常の事業を計画通りに進めつつ、浸水対策も早期の実施を図るという観点で、JSの活用をお勧めしています。
 今からちょうど50年前、全国で下水道の整備を急ぐべく設立されたのがJSです。下水道の根幹的施設の建設等に際して、地方公共団体で必要とされる専門技術者を地方公共団体間の共有の職員としてプールしておくことで、各地方公共団体における下水道の建設を円滑に実施できるようすることを目的に設立されました。これまでJSの活用実績のなかった地方公共団体においても、現下の下水道事業における大きな課題である、浸水被害の早期の解消・軽減に向け、その活用を検討していただければと考えています。

地方公共団体の職員向けの 技術研修の実施

 JS研修センター(埼玉県戸田市)では、地方公共団体の職員向けの各種の研修を行っています。計画設計、実施設計、工事監督管理、維持管理など各種のコースを設けており、浸水対策関連の研修に関しても図3のとおり実施しています。一部、開催済みのものもありますが、受講希望者数の状況に応じて、追加の実施も検討していきますので、最新の情報についてはJS研修センターのホームページをご参照下さい。
 なお、令和4年度より運用開始した新寮室棟は個室化されており、また、以前から稼働している管理本館も個室運用するなど、新型コロナウイルス対策も行いながら、研修を行うこととしています。

図3 令和4年度 JS研修センターの研修内容
図3  令和4年度 JS研修センターの研修内容(浸水対策関連のみの一覧)

おわりに

 JSは、令和4年度~8年度を計画期間とする第6次中期経営計画においても、雨水ポンプ場や雨水貯留施設、幹線管渠の整備等のハード対策に加え、ソフト面における技術的な支援の強化、流域治水協議会への参画など、浸水対策を推進する地方公共団体のソリューションパートナーとして、様々な側面から、積極的にその役割を担っていくこととしています。
 なお、円滑に事業を進める観点から、JSに委託し、令和7年度末までに想定最大規模降雨に対する浸水想定区域図を作成される場合には、遅くとも令和5年度から着手することを求めており、JSへの委託を考えている地方公共団体には、早めにご相談いただきますようお願いいたします。