地方共同法人 日本下水道事業団

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証言で綴るヒストリー Testimony

特殊法人等改革とJS中期経営改善計画について

野村 充伸
元日本下水道事業団理事 野村 充伸 氏
(現 株式会社フソウ 取締役 会長)

 2003(平成15)年、特殊法人等改革の議論が進み、JSの在り方等を問われる中、法人改革室は、現在の体制の基礎となる器、地方共同法人(民間法人化)への移行へと歩を進めます。
 一方、JSにあっては、先んずる2002(平成14)年2月に、地方公共団体の支援機関としての使命を果たすために必要な業務、組織、経営等の改革について、法人改革の動向も踏まえ、総合的に検討・推進することを目的として、「日本下水道事業団業務改革プロジェクトチーム」が理事長の指示のもとに設置されていました。
 野村会長(当時JS大阪支社工事課長)におかれては、当該PTの事務局長として、検討事項のとりまとめをされ、「JS業務改革基本方針」の策定と合意形成を短期間に集中的に行う中心ポストでご活躍されました。これは、画期的な経営計画である「中期経営改善計画」2003(平成15)年8月に繋がり、受託事業費の急激な減少を乗り切ることとなりました。
 法人改革という大きな流れに飲み込まれながらも、全社に及ぶ様々な改革に取り組んだご経験はJSとして大きな財産であり、「忘れてはならない」、「引き継がねばならない」、「残しておかなければならない」ことがらとして、当時のお話を聞かせていただくことと致しました。

広報:貴重なお時間頂戴し、恐縮です。本日は、よろしくお願いいたします。

広報:さっそくですが、「中期経営改善計画」が目指した方向性、大きなテーマとして、特にどのような点を意識されましたか。

野村:「中期経営改善計画」では、JSが「お客様第一の経営」を目指すことに加えて、持続的にお客様へ高水準のサービスを提供できるよう「自律的な経営」を確立することを目指しました。これら2つの経営方針を両立させるための「実施計画」として定めたものが「中期経営改善計画」です。期限は、2005(平成17)年までとしました。

広報:業務改革プロジェクトチームでの検討状況は、どのようなものだったでしょうか。

野村:そもそも2002(平成14)年2月に設置された「日本下水道事業団業務改革プロジェクトチーム(以下、PT)」は、法人改革に歩調を合わせてJSの地方公共団体の支援機関としての使命を果たすために必要な業務、組織、経営等について総合的に検討してきました。このPTの成果である「JS業務改革基本方針」は「中期経営改善計画」の課題、対応策などの骨格を検討したものです。このPTでは、経営層である役員打合せ会や実務部隊の要である本社課長級のサブPTを設置し、検討課題の網羅、深化させるばかりではなく、意思決定の迅速性を兼ね備えていました。このため、併せて200回を超える会合を同時並行で開催し検討を重ね、迅速な課題把握、対応策検討、組織全体での共有などを進めてきました。
 このPTの成果を受けて、同年4月に「中期経営改善計画策定委員会」(委員長:理事長、委員:役員及び両支社長)を設置して、この「JS業務改革基本方針」をもとに本計画をとりまとめました。8月21日の「第63回日本下水道事業団評議員会」に報告をした上で、同26日に正式決定しました。このように、本計画が策定されるまでには、業務改革に関する包括的な検討を「日本下水道事業団業務改革プロジェクトチーム」で、先行的に、実質的に行い、広範囲に及ぶ課題検討がおよそ1年半の間に実施された訳です。

広報:「JS業務改革基本方針」「中期経営改善計画」の要点について教えて下さい。

野村:「中期経営改善計画」のもととなった「JS業務改革基本方針」の事業団改革の方向性、組織コンセプトは、「委託団体を顧客と捉える職員一人ひとりの意思改革を出発点として、エンジニアリングの一層の向上を図るとともに、地域に密着したサービスを通じて、顧客である地方公共団体の満足度を向上させることでした。
 これをスタートとしてまず明確に経営理念として「中期経営改善計画」では「お客様第一の経営」と「自立的な経営」を事業団職員・組織に浸透させることを表明しました。これは、今回の地方共同法人化を期に、JSが自ら、創立以来初めて、経営理念を明確に宣言したとことが画期的であったと考えていました。

広報:計画の策定にあたって込められた思いとはどのようなものでしたか。

野村:「中期経営改善計画」では経営理念を掲げ、お客様満足度向上のための具体的メニューを明らかにする一方で、地域密着の組織形態、人員数と経費の削減目標を計数として明記しています。この具体的なメニューや定量的な目標を定めたことは、JSが今後も経営の透明性を高めて、説明責任を果たすという考え方を表明したものとも言えると考えていました。

広報:地方共同法人としての在り方については、どのようなお考えでしたか。

野村:その当時、JS職員の多くは、国の関与が薄れ、本当に自立できるのか心配であったことは事実です。しかし、地方共同法人を前面に押し出し、JSの地方公共団体の支援機能をより一層強化するとともに、地方公共団体の近くに立つという地域密着を訴えることでスムーズに地方共同法人への移行が進んだという結果を見るにつけ、地方共同法人化が成功であったと考えています。

図1 JSのセールスポイント概念図 図1 JSのセールスポイント概念図

広報:具体的な組織編成などで、特に留意された点がありますか。

野村:改革の要諦は「エンジニアリングの一層の向上」と「地域密着」です。組織編制として東京、大阪の設計センターにエンジニアを集約させ、そこで技術の深化、継承を行い、一方お客様にはPMRが総合事務所という近い位置に配置しました。
 さらに、経営理念を実現するために、お客様満足度向上のためのメニューとして7つのカテゴリーに整理して、具体的な手法を明記するようにしました。

広報:お客様満足度向上のためのメニューとはどのようなものでしたか。

野村:第一には、業務改革の目標をお客様満足度向上として、お客様の声を聞く方法としての「はがきアンケート」を引き続き実施することに加えて、事後点検等のアフターケアを一層充実させるとしています。また、具体的な業務手法として、7つのカテゴリーでお客様満足度を向上させるとしています。

①身近で迅速、安心なサービス
②豊富な技術メニューによるお客様の多様なニーズへの対応
③より低コストで高品質の施設を提供
④改築更新事業や維持管理業務等のライフサイクル全体への支援
⑤新たな政策ニーズや課題に対する緊急かつ適切な支援
⑥お客様の二-ズを踏まえた新技術の開発と迅速な導入
⑦お客様のニーズに即応した機動的な研修の実施
の7つのメニューです。

 また、地方公共団体の意向の反映のために、お客様情報の一元的管理と総合事務所における窓口の充実等を謳っています。

広報:収支均衡を図る手段として、具体的には、どのような検討をされましたか。

野村:厳しい経営環境を想定しても十分耐えうるように、収支均衡を図るために、平成17年度、1,900億円という目標としては大胆なフレームを仮定しました。これは、公共事業費や下水道事業費が減少するという前提ではなく、 JSが厳しい経営環境であっても収支を均衡できるための目標という位置付けです。このフレームをもとにして、収入を想定して支出をいくら削減すればよいかを試算しています。

図2 事業費動向のグラフ 図2 事業費動向のグラフ

広報:私もPTメンバーだったので、収支の計算は、何度も作業した覚えがあります。

野村:自立的な経営基盤の確立のためには、厳しい前提条件のもとで収支均衡が図れるようにする必要がありましたので、当時の受託事業費の減少傾向等も考慮に入れるようにしました。実際には、平成17年度における受託事業費1,900億円と仮定しても耐えうるように、その場合の収入96.4億円を前提として収支の均衡を図ることとしました。経理課でのフレームの作成、会計課は執行面での調整と、大変な作業だったことと思います。

広報:自律的な経営を目指すための、定量的なエビデンスだったわけですね。

野村:厳しい経営環境を想定して十分耐えうるように、収支均衡を図ることを目標とした訳です。そのための経費削減についても、数字を挙げて、人件費とその他支出に分けて明記しました。さらに、地域密着の活動ができるスリムな組織形態を組織体制の再構築として明確に示すとともに、再編成後の人員数も掲げています。

広報:フレームはどのように検討されましたか。

野村:平成14年度決算ベースの収入から計算すると、21.1億円の削減を目標としました。そして、その内訳を人件費で15.6億円、その他経費で5.5億円としました。人件費の内訳は、組織再編による組織のスリム化、人員削減によって9.4億円、給与制度の改正、運用等の見直しによってさらに6.2億円削減することとしました。

広報:その他の経費は、どう検討されましたか。

野村:その他経費についても、旅費、庁費、事務所維持費、調査関係費などで合計5.5億円の削減を予定しました。今までも、かなりJ S全体で人件費を含めた経費を抑制してきましたが、より厳しく削減に努めることになります。人件費、その他経費ともかなり厳しい計画ですが、自立的な経営を目指すためには必要な経費削減と考えました。

図3 収支見通しの概念図 図3 収支見通しの概念図

広報:組織形態の編成については、どのような検討がなされたのですか。

野村:組織形態はお客様満足度の向上と経営の安定化の双方を両立させることを目指しており、お客様に近く、地域に密着して効率的な組織に再編成することとしています。まず、組織階層は現状の「本社-支社-工事事務所」を「本社-総合事務所(ブロック単位)一事務所(概ね都府県単位)」として、支社を廃止して地域に厚い組織階層としました。
 また、ブロック単位に設置される総合事務所にはお客様サービス課を新設し、窓口の強化を図る一方で、受委託関係のある地方公共団体の実務的窓口となっているPMR (プロジェクトマネジャー)をお客様により近い総合事務所へ配置することとしました。

広報:既に導入されていたプロジェクトマネジメント制による業務の体制については、どのようにお考えになられましたか。

野村::JSでは、すでにプロジェクトマネジメント(PM)による業務運営を3年前から実施しています。この間、PM制度がJ Sに浸透した結果、業務の効率化が進み、さらにお客様には協定、予算管理がわかりやすいなど良い評判を得ています。これを踏まえてPM制度に基づく機能別の組織再編成を行うことができました。

広報:本社のスリム化も課題でしたね。

野村:本社では、経営を担当する経営企画部、プロジェクト実施のとりまとめの事業統括部、そしてそれを技術的に支援する技術監理部と3部に再編成しました。本社に5つあった部を2部削減して、3部にスリム化しました。この組織再編に伴って、いわゆる間接部門を中心に人員削減を行い、平成15年度の当初人員数に比べて、約110名を削減して約580名の体制にすることとしました。スリム化を目指して、20%近い大幅な人員削減を行うことになります。

広報:人員削減は、内部としては相当なインパクトがありました。業務の体制については、すんなりとおさまったのでしょうか。

野村:北海道や北九州総合事務所では現地で設計を行っており、設計情報の共有という点では一定の評価もいただいておりました。一方で、JSの屋台骨であるエンジニアリングをどうするのか、技術の継承はどうするのか、は極めて重要な課題でエンジニアリングの深化・継承は譲れない点でした。このため、一定数のエンジニアがいる組織で所掌すべきと考えていましたので、最終的には東西2か所の設計センター、さらに本社事業統括部の下に置く組織としました。 JSのエンジニアリングは、土木、建築、機械、電気、水質という5職種でメンバーが2~3年で異動することを考えると、一つの設計課で10名程度が目安となります。このため、東西の設計センター規模が適正となった訳です。事実、このおよそ20年ほどが経過していますが、東西設計センターの組織体制が継承され、エンジニアリング力の活性化が図れているのではないでしょうか。外の組織から、JSの技術、とりわけ基準類を見た時、本当に素晴らしいものと感じます。まさに「デファクトスタンダード」だと思います。職員であったときも、そういう評価をもっていましたが、いざ民間企業で働くと、一層技術の高さを痛感します。

図4 組織再編図 図4 組織再編図

広報:お客様のニーズについては、どのような検討をされましたか。

野村:お客様のニーズがハードに関する分野のみならず、維持管理、改築更新、経営などのライフサイクル全般に拡大していることが判明し、それら状況に対応することとしました。その業務展開のコンセプ卜を「お客様一人ひとりの地域ニーズに応じた最善の解決策をライフサイクル全般にわたりワンストップサービスで提供すること」として、役職員一丸となって取り組むこととしました。

広報:そのほかに腐心された改革のアプローチはありましたか。

野村:一つは、収入増加策としてお客様とのコミュニケーションを密にさせることで、要望、ニーズをPMRを中心に把握して積極的な受託推進活動を行うこととしました。

広報:公的な機関が、「お客様」と呼称するとか、「お客様サービス」という言葉が独り歩きしてしまい、地方公共団体と対峙する現場レベルでは、「受けが良すぎて困る」のような感想も聞かれましたね。

野村::JSは生まれ変わるんだというメッセージとして、相当の効果があったと考えるようにしていました。

広報:ほかには、いかがでしょうか。

野村:社内的には、職員の能力向上や意識改革についても言及しており、役職員一人ひとりが研鐵し、努力することも求めています。意識改革については、時間コスト、説明責任、新たな分野への積極的なチャレンジなどを通して、お客様第一の対応を目指すこととしました。

図5 JS改革の内容 図5 JS改革の内容(業務改革、組織改革、意識改革、収支改善)
図6 改革の方針の概念図 図6 改革の方針の概念図

広報:「中期経営改善計画」では、「JS創立以来の画期的な計画であり、JS職員にとっては、厳しい計画になる、しかし、それを実現することで確固たる経営基盤が根付き、荒たな飛躍が出来る」と結ばれました。今、あらためて外から見るJS、どのようにご覧になりますか、あるいは、どのように見えていますか。

野村:20年ほど前の改革成果については、現在の受託状況やJSの評価が「答え」になっていると思います。当時の目論見の通りエンジニアリング力は向上され、特に機械・電気設備における仕様書類は、「デファクトスタンダード」として、下水道事業ではほぼすべての地方公共団体で、水道事業においても相当数の団体で採用されています。このことは、公共事業である上下水道事業の基盤となっていることに他なりません。
 さらに、PM制では公共事業に初めてプロジェクトマネジメントの思想を取り入れ、予算管理、スケジュール管理などに専用のシステムを構築しています。このPMシステムを経験した出向経験者は自分の地方公共団体でも採用したいという方もいらっしゃるくらい使い勝手の良いシステムに改善されています。
 このエンジニアリングの向上とPMによる地域密着で、当時、JS委託に見向きもしなかった中核、中堅都市からの建設工事委託が増えたことも見て取れます。
 これらの点で、出発点となった、「JS業務改革基本方針」は一定の成果を出したものと秘かに自負しています。

広報:本年、JSは、第6次中期経営計画を策定しました。本計画の達成に向けては、目標達成までのプロセスを重要業績評価指標(KPI)として見える化し、定量的な進捗管理の手法により実行することとなりましたが、当時において「業務改革プロジェクトチーム」が200回を超える会合を同時並行で開催し、全社に及ぶ内容について検討を重ねたこと、その過程での迅速な課題把握、対応策検討、組織全体での意思決定につなげられた状況は、今日においても、十分参考にしつつ、活用・共有させていただきたい情報と感じました。
 本日は貴重なご経験について、お話をうかがわせていただき、ありがとうございました。