地方共同法人 日本下水道事業団

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証言で綴るヒストリー Testimony

第一線で活躍できる人材の育成


 日本下水道事業団研修センターでは、「第一線で活躍できる人材の育成」を目標に、下水道のライフサイクルを網羅する7つのコースを設け、専門的知識が習得できる各種の専攻を設定してまいりました。 また、JS研修は、少人数のクラス編成としており、経験豊富なJS講師陣によるきめ細かい指導に努めております。これまで、魅力にあふれ、皆様から指示される研修づくりに邁進されてきたお二人の名物講師に焦点を当て、お話をうかがうこととしました。

一期一会 人は宝なり

~研修生を魅了して止まない何か~

渡邊良彦特任教授
日本下水道事業団 研修センター
渡邊良彦特任教授

広報:渡邊先生におかれては、研修センターの草創期から研修業務に携わってこられてきたわけですが、当時の状況、どのようなスタートをきられたのでしょうか。

渡邊:1975(昭和50)年7月、私は出向職員でしたが、企画業務の一助となるよう命ぜられ、演習・実習関係(特に管きょ初級編)の演習教官として、教材・資料等を作成し、その後演習の構成、講義、成果品のチエックをして研修生の派遣元にそれらを送付するという業務を担当することになりました。
  試行錯誤を繰り返し、先輩方の意見を参考にしながら体系を整えることができました。2年間忙しく取り組んでいるうちに研修業務の大事な意義を感じ、この先も研修業務にかかわる仕事を継続したいと決意した時期でもあります。

広報:研修センターが建物として、物理的に用意されました。何千人という研修生の受け入れが可能となりましたので、いろいろな研修コースを用意し、講師のあてはめ、資料や教室の準備、研修生の勧誘、受け入れから送り出しまでと、いろいろな細かい準備がありそうです。当時、とりわけ、重要だと認識されていたことはありますか。

渡邊:施設が拡充され、1997(平成9)年度から2,000名の受け入れが可能となったわけですが、教室・寮室の整合の取れた実施計画と回数の設定が重要と感じておりました。2000・2001(平成12・13)年度に、戸田研修が2,000名を超える実績を残すことが出来たのは、臨時部屋等を作り一人でも多くの受講生を受け入れた努力の成果です。
 もう一点は、研修の回数を増やすとなると、更なる講師の手当が生じるわけでその対応にも一苦労がありました。そこは最終的には、人的ネットワークで乗り切ったわけです。

広報:外部講師の手配はどうされているのですか。

渡邊:当研修センターが発足して暫らくは、人の繫がりで講師の手配が出来ていましたが、研修拡大に伴う中では限界があり、組織としての対応にシフトして行き今日に至っております。

広報:実際、どうされているのですか。

渡邊:「人の輪」につきます。結局、誰かに助けてもらっています。これまで、何人ものみなさんが研修センターにはお越しになられています。講師候補を以前教えてもらった人、講師を知っていそうな人を手繰り寄せていってお願いする。結果として、遠くからお運びいただくこともありますが、時間のやりくりをして、なんとか都合をつけていただいたりしています。毎年のことですが、JSの予算案ができると講師派遣のお願いの日々が続きます。(研修準備用の「大学ノート」、手帳を開き見せていただく。)それもこれも、つまるところ「人の輪」に助けられています。

取材後に写真ご提供
(取材後に写真ご提供)

広報:手書きの手帳をお使いなんですか。

渡邊:ぼくは携帯電話もスマートフォンもダメなんです。これは、某設備業者さんが毎年年賀用に配るやつなんですけど、ずっとこれ。直接もらえるようにすればいいんですが、いろいろ問題があるので。僕がこれを使っているのを知ってくれている人が、毎年用意してくれるんです。

広報:ご担当のコースで大切になさっていること、モットーのようなことはありますか。

渡邊:課題演習・測量・製図・積算等は、体で体験する学習が大事であり、今でも基礎編は当事業団だけが行える体系的研修だと自負しており、今後も継続してほしいと考えております。
  また、コース開講中は、修了式まで毎日、早朝出勤をして、直ちに教室に向かい窓とドアを開放して空気の入れ替えをし、その日の講義資料・映像のチェック等を行います。教室、教材庫を巡って、講師控室へ戻り、幹事等との顔合わせ・打合せ・確認等を行い、それらが終わり次第、教室でのホームルーム、講師の受け入れ対応から授業開始と形から入ることをモットーとしております。(家族にはかなり迷惑がられております----コロナ前からの習慣です。)

広報:研修生からの年賀状がたくさん届くとうかがったのですが。

渡邊:毎年、自筆の年賀状は千数百枚ぐらい。コメント、あて名も自筆。写真を添えることもあります。家族からは、もういいんじゃない、いつ止めるの?とか、聞かれてます。

広報:奈良県橿原市の観光大使をなさっているようですが。

渡邊:研修生のOBからの推薦依頼を受けまして、奈良県橿原市の観光大使を務めさせていただいています。今期で8年目ぐらいだったでしょうか。東日本エリアを担当するよう任じられているのですが、名刺の配布先は全国です。この前知ったのですが、同市の観光大使のなかでは、名刺の配布数が断トツで一番多いと言われました。

広報:先日、ちょうど拝見することがあったのですが、研修終了後、研修生がバスでお帰りの時には、研修センターのみなさんで、見送りをされているんですね。

渡邊:いい光景でしょ。

広報:穏やかな雰囲気で、達成感のようなことを感じていただけていれば、ありがたいなと思いました。 ところで、研修生から寄せ書きとかを頂いているとうかがったのですが。

渡邊:僕の宝物なんですよ。ご覧になりますか。

研修生からの寄せ書き
研修生からの寄せ書き
研修生からの寄せ書き
研修生からの寄せ書き
研修生からの寄せ書き
研修生からの寄せ書き
(取材後、撮影用にご用意いただきました。ほかにご自宅にも保管されているものもあるそうです。)

広報:限られた研修期間内で、研修生とここまでの関係になれるのは、何か秘訣のようなことがおありなんでしょうか。

渡邊:本当に、ありがたいことです。自分ではよくわからないです。

広報:貴重なお話を、また宝物たちも、ありがとうございました。
(まいった。存在感に圧倒され取材を終了。)

取材余話
ここが出るよと補習をし、それじゃ帰れないよと予備試験をし、質問への対応はもちろん、よろずの相談にも。
  「研修みずのわ(54、55号)」記載の「子宝神社」の記事をご覧になったご夫婦(某市の職員)相手に3時間を費やしても、渡邊先生ならあるかもしれないとうなずける。
誰しもが出来ることではなく、やり続けてきて、やり続けている事実
JSとして、この「人の輪」をどう継承していくのか



下水道は一生かけて探求する道

汲めども尽きぬ新たな目標

加藤 壮一
日本下水道事業団 研修センター
教授 加藤 壮一

広報:加藤先生におかれては、下水道経営全般に関する講座一筋にご担当されてきておりますが、この職務に没頭されるきっかけはどのようなことだったのですか。

加藤:20代の終わり(1985(昭和60)年)に建設省へ勉強に行く機会(研修生派遣)をいただきました。当時建設省では、下水道部に下水道管理室が設置されたところで、社会資本の整備をする建設省において、公の施設の管理と経営の勉強をすることができたことが、今日につながっていると思います。(5次財研のメモ取りも経験)
 また、当時の建設省には、後に日本の下水道を担われる方々が係長でいらっしゃいました。その係長さんたちの優秀なことや真剣な仕事ぶりに衝撃を受けました。自分のような凡才が、たいした目的もなくノンビリ生きていてはいけないと深く反省しました。そのことも今日につながっていると思います。

広報:一口に下水道経営といっても、様々な分野がありますが、主にご担当される専門分野としてはどういったものがありますか。

加藤:下水道の経営をはじめ、下水道使用料、受益者負担金、消費税、滞納対策、企業会計、包括的民間委託と指定管理者制度、水洗化・接続促進、経営戦略の策定等の経営全般、施設を作って動かすこと以外はほとんど担当しています。

広報:ご担当される講座で何か特徴のようなことがありますか。

加藤:私の講座の特色は、講座の寿命が短いことです。研修内容やテーマを常に見直していませんと、受講者数がたちまち減少します。例えば「企業会計移行の準備と手続き」は、この7年間ベストセラーでしたが、2024(令和6)年4月には全国の全ての都道府県、市町村の全ての汚水処理事業に地方公営企業法の財務規定が適用されることとなりますので、研修の役割を終えることとなります。
 講義内容の不断の見直しと新しい需要に応えた新規講座を立ち上げていくことが不可欠です。

広報:経営上の課題は常に変化しているということでしょうか。

加藤:新しい課題が次々に出現し、その課題を解決できる研修を企画してきたつもりです。

広報:受講を希望する研修生が絶えない理由はそのあたりでしょうか。

加藤:市町村の皆様の疑問にお答えすることが新たな研修需要を生み出していることと思います。その一方で、教えているつもりが教えられることのほうが圧倒的に多いです。実は、このことが私に研修を続けさせてくれる原動力にもなっています。ひとつの事例を示すと、その反響が呼びかければすぐさま返ってくる、まるで木霊のようです。ひとえに皆様からのご支援の賜物です。

広報:研修に際し、いつも心がけていることはありますか。

加藤:講義は、難しいことを易しく、易しいことを面白く、面白いことを深く伝えたいと心がけています。
 また、しっかりとした発声で正しい言葉使いで話すことを心がけています。

広報:第一声から、全力投球。大きな声で、畳みかけるようにして進む先生の講義そのものですね。

加藤 壮一
加藤 壮一

広報:これだけは地方公共団体へ伝えたいということございますか。

加藤:「この研修をもっと早く受けていれば」という言葉を数知れず聞いてまいりました。全国の困りごとを全国の市町村の皆様とともに悩み解決してきた知見を研修ではお伝えしています。「転ばぬ先の杖」とお考えになって、困ってから研修を受講するのではなく、分からなければ研修を受けていただきたいと願っています。

広報:知見の共有、ナショナルセンターとしてJSの果たすべき役割なので、もっとご活用いただけるよう広報でもリーチに努めるよういたします。

広報:これからの研修の在り方について、お考えのことがあれば教えて下さい。

加藤:これからの下水道事業を取り巻く状況は、人口減少、使用料収入の減少、施設の老朽化、ベテラン職員の退職や職員数の減少等により経営環境が一段と悪化してまいります。
 これらの問題を解決するためには、施設の共同化や事業の広域化が不可欠です。幸い令和6年には、全ての下水道事業が企業会計化されます。そうしますと財務諸表が出揃って、どの施設やどの事業をどこと共同化、広域化すれば効率的、効果的、経済的になるかを客観的かつお金に換算して評価することができるようになります。経済効率を最大限に図ったところで、民間委託、官民協働、民営化につなげていきたい、そのために研修をお役立ていただきたいと心から願っています。

広報:財務諸表からは何が読み解けますか。

加藤:様々な施策の収益性や採算性について、客観的にお金に換算して把握することができます。浸水対策、地震・津波対策、老朽化対策等いずれも必要なこと。また、目の前の修繕は、今日明日のこととして、やらざるを得ません。下水道施設は公共財、人々の暮らしと切り離すことは不可能です。しかしながら、料金収入には上限があり、優先順位はつけなければなりません。建設計画を経営の視点で評価する手段として、企業会計制度があります。できる限りお金を使わなくてすむ事業効果のあがる計画を見定めることが重要となります。

広報:研修手法について、ご検討のことがあれば教えて下さい。

加藤:研修手法の多様化も進めています。コロナ禍により対面研修がいっさいできない時期がありました。その後も「まん延防止等重点措置」により、研修センターにおいて研修が開催できない時期が続きました。このままではいけないと非対面研修であるOn-Line研修を実施しました。最初は、教室で行う講義とは全く勝手が違い、研修効果を教室と同程度に確保できるのか、このような内容でお金をいただく研修といえるのかと苦労しました。最初は無料でお試しの講義を受講いただき、感想をいただきながら改善点を見つけ、今では「知識の習得」を目的とする研修であれば、対面研修とほぼ変わらない研修効果が得られるという感想をいただいています。ただし、「問題解決」のためには、残念ながら対面で一緒に場所と時間を共有して取り組まなければ難しいこともわかってきました。On-Line研修のメリットデメリットが、ようやく分かってきました。
 また、On-Line研修の場合、放映時間中、職場等で常にパソコン画面に向かっていなければなりませんが、電話がかかってきたり、その人でないと対応できない問題があったりすると、どうしてもOn-Line研修に集中できないという課題から、On-Demand研修を令和4年度から開始しました。これは、放映期間中であれば、何処でも何時でも何度でも、講義を受けられるメリットがあります。今後は、On-Demand研修のメニューを多様化してまいります。
 On-Line等の非対面研修は、コロナ禍により対面研修ができない苦肉の策として始まりましたが、思わぬ副産物を生みました。それは、職場や家庭を離れることができない方、研修センターから遠方の方、また地方研修であってもそこまでも行くことができない、けれども研修は受けたいという方達からの申し込みが予想以上に多くなったことです。研修手段の多様化により、研修受講者の裾野を広げることができました。

広報:裾野が広がったというのはありがたい効果ですね。

広報:新たに導入を検討されている取り組みはありますか。

加藤:次に検討していることが、研修へのメタバースの導入です。戸田市の研修センターまで来られなくても、仮想空間で研修センターと同じ教室で講義を受け、ディスカッションをして、新寮室に泊まっていただく。自分の職場や家庭に居ながらにして、研修センターの研修を受けられる仮想空間を作ることです。研修業務への真のDXの導入は、メタバースにあると考えています。
 メタバースの仮想空間で研修を受講された方は、必ずやリアルの研修センターで研修を受講したくなるような講義を行う、これが私の目標です。 これらの目標を実現するまでは、辞められないというのが、今の私の願いです。研修を通した下水道は、私にとって一生かけて探求する道です。

広報:加藤先生、今日は貴重なお話をありがとうございました。


取材を終えて
 最終講義を検討するきっかけとしてお考えいただこうと思ってお話をはじめましたが、最後に、メタバースを検討中とおうかがいし、躊躇なくひっこめました。
 まだまだ、現役とお見受けしてのお願い。後進の育成もよろしく。